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それからのことだが、俺と真島は暇さえあれば一緒にいた。
真島も俺にハッキリ「会いたい」と言うようになった。
当然だが俺達は時間をすごく大切にしていた。
真島は毎日飯を作りたいと言ってくれたが、さすがにそれは駄目だと言った。
こいつも自分の家があるんだから、それこそ真島の親に何を言われるか分からない。
黙っているとどこまでも俺を主体に考えて周りが見えなくなるような奴だから、それは俺が見てやらないといけない。
それでもついつい真島に流されてしまうこともたくさんあるが。
真島に触れられるのはいつだって気持ちよくて、だけど泣きたくなるほど苦しかった。
それでも俺より先に絶対泣いてくれる奴がいるから、それを見たらいつだって気持ちを引き締められた。
俺がしっかりしないと、別れた後真島が未練を持ち続けてしまう。
結局好きにさせることができなかったんだ、とそう締めくくってくれるのが一番いい。
それからの時間は驚くほどあっという間に過ぎていって、気付けば秋を超えて冬になり、そして二年生ももう終わろうとしていた。
学校に桜が咲き乱れ、今日は三年生を送る卒業式だった。
卒業式後の校門前でガヤガヤと新たな門出に向けて泣きじゃくる卒業生や、先輩を惜しんで見送る在校生達。
真島は卒業する先輩達に囲まれて、ボタンやら何やらを全力で剥ぎ取られていた。
お前が卒業すんのか。
「ミカ先輩」
くるりと巻いたふわふわの茶髪。
振り向いたミカ先輩からふわりと香水の香りがして、なんとなく懐かしさを覚える。
「うめのーん、卒業しちゃうよー。つまんなくなっちゃうー」
「それは真島をいじめられなくなってっていう意味ですか」
そう言ったら先輩はテヘッと舌を出してウインクする。
七海よりはマシだがイラつくな。
「もー、卒業式なんだからもっと寂しがってよっ」
「寂しいですよ。だから話し掛けにきたんでしょう」
言ったら、先輩は目を丸くする。
それからあははっ、とどこか照れたように笑った。
「そうやって女の子を口説いてきたんだもんね。やっぱりうまいなぁ」
「何言ってんですか。もう口説いてませんよ」
「知ってるー」
ミカ先輩はそう言って、チラリと真島を見る。
俺も一緒になって見たら、真島はその視線に気付いたようで慌てて人混みをかき分けてこっちに走ってきた。
なんかもう色々されてボロボロじゃねーか。
「あっ…あのっ。卒業おめでとうございますっ」
真島はそう言いながらも、さっと俺の後ろに隠れる。
お前のが身長デカイから全然隠れられてないんだが。
先輩は真島の態度をさも楽しげにニンマリ笑顔で見てから、はーい、と手をあげる。
「じゃあ今日は真島くんに、最後のうめのん話を教えてあげよー」
「えっ、い、いらないですっ。もう充分ですっ」
ミカ先輩と過ごした時間よりとっくに真島と付き合っている時間の方が長いのに、コイツはまだ真に受けていじめられているらしい。
先輩はわざとらしくコホンと言ってから、俺の後ろに立つ真島の胸にトンと人差し指を当てた。
「うめのんがたくさん甘えてくる時はね、注意したほうが良いよ」
「何言ってんですか。適当なこと言わないで下さいよ」
何か真島に吹き込もうとしてる先輩を横目で見ながら、ぼんやりと先輩に甘えたことなんかあったかな、と記憶を辿る。
どちらかといったら先輩のほうが甘えまくってたじゃねーか。
「ああ、でも真島くんは甘えられたことなんかないのかな?」
「……っ」
先輩はクスリと笑って真島を挑発的に見上げる。
なるほど、こうやって真島をいじめてたのか。
俺の背を掴む真島の手にキュッと力が入っている。
単純な奴だから、心にぶっ刺さりまくってんじゃねーか。
だけど先輩は真島の表情を満足そうに見てから、今度は綺麗に微笑んだ。
ふわりと優しい風が凪いで、桜の花びらが舞う。
それはどこか大人びて見えて、ああ、ちゃんと先輩だったんだなと今頃になってそう思った。
「強がってばっかいるけどね、本当はすごく寂しがりやさんなんだよ。忘れないであげてね」
ミカ先輩は真島にそう言って卒業していった。
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