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だから、ね。
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ちゃぷ とぽん
と、音がする
深夜に浸かる湯船は暖かく
眠気を誘う
あぁだめだめ
今日のことを反芻しながら眠りたいんだ
完全に脱力したからだにまた力を込めて浴槽から出る
シトラスの香りのシャンプーで頭を洗って
ミルクの香りのボディソープで体を洗う
あぁ、ニヤケが止まらないな
長らく片思いをしている彼は無口で、つい悪態を吐いてしまうタイプの人間だ
言ったあとに後悔をして、そっと疎遠になろうとする
私はそんな彼に恋をしてしまった
関わること自体が難儀で、視界に入るだけで本当は胸がいっぱいになる
けど、たまに話しかけたり、彼の入社試験の前の日は
明日、頑張ってね
と言えた
そんな私に、彼は少し何か考えたあと無表情で、でも少し目を逸らしながら手を振った
マスクの中で日に当たらない自分の肌が熱を帯びるのを感じて彼が降りたあとのバスの一角で、そっと悶えていた
時々彼の方から話しかけてくれる時もある
「伊藤、これ 好きなのか」
これ、というのは大きめのサイズのバックに付けている拳ほどのサイズのぬいぐるみ
うん。
と答えると
「ふぅん」
と言ってぬいぐるみの手を握った
彼は大体は人を初めから名前で呼ぶ
けれど私は未だに苗字で呼ばれる
なんだか少し距離を感じてしまって1度
なぜ名前で呼んでくれないのか?
と、聞いたことがある
「中学の頃に好きだった奴と、名前が同じなんだ」
なるほど。
でも彼はきっとその人を名前で呼んでいたのだ
羨ましい
けれど、そんなことはおくびにも出さずに
そうなんだ
と、返した
それ以降きっと彼は私が彼に嫌われていると悲しんでいるとでも思ったのだろう
未だに名前では読んでもらえないが
たまに、彼が勝手につけたあだ名で私を呼ぶ
それは他の誰よりも特別で、幸せで
私は空の色を青い
と、思った
「トト、落としたぞ」
留兎(ると)
留めるのト
兎のト
彼が勝手につけた私のあだ名だ
ありがとう
と、笑顔で返せば困ったように目を逸らされる
でも、愛しい
ねぇ、君は……
「ん、もうバス来るぞ」
あ、あぁ、本当だ。
「今日は人全然居ないな」
そうだね
「そういやそれどこで買ったんだ?」
こぶし大のぬいぐるみは修学旅行で行った先で運の悪い私が唯一取れたものだった
んー。修学旅行で行った先で貰ったんだ
「へぇ、カオナシ好きなのか」
うん。なんか、かわいくて
「ふっ、まぁたしかに。」
そういえば君はゲームが好きだったんだよね
どんなゲームをやるの?
「あー、俺はジャンルはアクション系だけど古いゲームが好きで
最近はファミコンばっかやってる」
へぇ、スマブラばっかりやっているんだと思った
「学校でファミコンは出来ないからな」
たしかに
ふふ、と2人で笑い合っていると
彼の降りるバス停に着く
「あ」
ま、また明日ね
ばいばい
「ん」
また明日、とかばいばい、とか
そういう言葉を言うといつも困ったように目を逸らして手を振る
その仕草が好きでたまらない
もう時期私達は別々の土地に住んで
きっともう会わないだろう
だから
また、明日……ね。
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