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道端に落ちてる小石のように取るに足らない話
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「やー、毎日ご苦労様ですー」
伸ばした語尾に伸びたパジャマ
「いえいえ、それよりもこんな時間に外にいてもいいのですか?」
「いやー、ははは……」
バツが悪そうに笑って目をそらす
その先には何も無い
「はい、これ今日の分です
毎日葉書なんて、随分あなたを好いているのでしょうね」
「……恋人からなんです」
また今日もハガキを差し出して茶化せば
言いにくそうに言い淀んで
へら
と笑う
「へぇ、仲が良いのですね」
「好きな人に想いを伝えたいと思うのは
こんな体になってからは、難しいのです」
小難しい顔をして
唸る
その意図はあまり読み取れない
「……どこが悪いのですか?」
「…心臓、ですねー」
どうりで長いはずだ
俺がこの仕事についてひと月ほど経った日から毎日この葉書を届けなかった日はないのだから
「……心臓…気をしっかり持ってくださいね
俺、明日も葉書届けるので!」
「えぇ、お願いしますねー
あ、太陽が隠れちゃう
そろそろ戻らないと怒られちゃうのでまた明日ー」
また明日という言葉は好きだ
今の関係が続くっていう意味だから
「あ、俺もまだ仕事が残っていたんだ!
それじゃあまた明日来ますね!」
「お気をつけてー」
軽く手を振って別れる
薄いパジャマが緩やかに風に煽られる
病院の入口のガラスが夕焼けの朱を映して
その光に彼が揺らいだような気がした
「ったくよぉ、秋よ
お前がサボるたァ思わねぇがな。
今日はちと遅かったんでねぇか?」
目の前でどかっと椅子に座っているのはいわゆる上司
あまりにおしゃべりが長かったので配達が少々遅れてしまったのだ
「…ぅー、すみません」
「何してたんだァ?」
ふん
と、鼻を鳴らされる
「……春彦さんとお話してて…」
「あぁ、松葉病院の
そういやまた葉書届いてたな
持ってかねぇと」
今まですっかり忘れていた仕事を思い出した上司は重たい腰を上げた
「あっ、俺自分でやります!」
担当の俺が座っている訳にも行かないだろう
「おぉ、じゃあせっかく立ったし俺も着いてくわ」
「そ、そうですか」
全くの無駄足ではあるが、
運動不足の上司をなるべく動かしてくれとこの人の奥さんから言われていたことを思い出した
「これだなぁ」
1枚の葉書を渡される
「えっと、八木 春彦 宛
うん。春彦さんのだ」
柔らかな夕暮れ時の空のような
それともオシャレなバーなんかで出てくるカクテルのような
形容しがたい美しい色
青とも赤とも言えない
最近は春彦さんの恋人の好きそうなものまでぼんやり取りと分かるようになってきた
「うーん。
しっかしよぉ、この文
入院中のやつに宛てたものって考えると変だよなぁ
今どき毎日葉書を送るってのも珍しいしよォ」
葉書の絵に思いを馳せていると唐突に話しかけられた
「え?」
聞いていたけど処理が終わる前に声が出てしまった
「まるでお前と八木さんのこと見てぇだな」
にかっ
と笑う大柄な男に言われて気づく
「……あ」
「明日も届けんのかい」
「もちろんじゃないですか」
あの人から俺へ、俺からあの人へのラブレター
俺とも春彦さんとも取れる文書
よくこんなこと思いつくなぁ……
明日この文をあの人に伝えたらどんな顔をするだろう
『便り持ち
夕暮れ時に訪れる
優しい笑顔の君を待つ』
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