アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
雲の向こうに白い月
-
僕はバス停で高校に通っている
このへんはみんな寮生だからバス通してるのは僕くらいなものだ
学校を出て右に曲がって坂を登ると
赤い壁と緑の屋根が見える。
トマトと呼ばれる小さな雑貨屋で、看板はないから正式な店の名前はわからない
トマトの横には自動販売機がある
僕はそこで蜜柑の缶ジュースとホットの缶コーヒーを買う
自販機を左に曲がってしばらく歩くといつものバス停がある
気だるげにガードレールにもたれて空をぼーっと眺めている少し髪の長い少年が居た
「しろー」
白鳩 悠冴(しらはと ゆうが)
同級生で無口、そしてなんかエロい
「。」
目で返事をする
だけど頭は動かさないから視線はまた空に戻る
「天気いいね」
「…ん、そういえば」
意識して眺めていた訳では無いらしい
彼らしいが
「どっち飲む?」
差し出したものを眺め
「君は」
と一応僕の意見を聞いてくれる
ように見せかけて実は甘党なしろはコーヒー飲めないのがかっこ悪いと思っているのか飲まないくせに自分からは絶対に甘いものを取らない
「僕はコーヒーがいいかな
しろは蜜柑でいい?」
「別に」
ほっとした顔とムッとした顔
コーヒーを飲まなくていい反面
僕はコーヒーを飲めることが恨めしいようだ
僕は別にコーヒー飲みたいわけでも飲ませたいわけでもない
ならなぜ買うか
しろのこの顔が面白いから
「君って、ほんといい性格してるよね」
おっとりとした喋り方の癖に言い方には棘があって
僕の考えはお見通しの目
「んー」
しろの目は青い
水色に墨を垂らしたような色
感情を閉じ込めたガラス玉
肌は白くて日焼けしない体質
髪はサラサラでグレーがかった黒
仕草はマイペースで
キレた時は人を殺しそうな目をするけど
でも謝ったら許してくれる
優しいし、綺麗だし
なんだかんだ僕のことを気に入ってるみたい
「しろの家ってこのへんなんだよねー」
「そう」
「今度遊びに行ってもいい?」
「ゆーが掃除嫌いだから無理」
一人称が自分の名前
世の女が土下座するレベル
「じゃあ僕が片付けるよ」
「触んないで」
「んー」
そんな会話を続ける
「そういえば好きな子できた」
「誰」
「森女のアヤカちゃんって子」
「なんで」
「この間遊び行った時飴くれてさー
優しいなって思って」
「…そんなんだから君はちょろインなんだよ」
「なにそれ」
「ちょろいヒロインでちょろイン」
「ディスられてる?」
「相違ない」
「…だって、可愛いし優しいんだもん」
「かわいくて優しいだけならたくさんいるよ
ゆーがだってかわいいは無理だけど優しくするくらいだったらアヤカちゃんって子とやらよりは優しくできる自信ある」
「んー、そーう?」
「うん。」
「そんなんじゃそのうち変なツボ買わされるよ」
「んー、大丈夫だよ」
「なんで?」
「買わされたならそれは自分の責任だし
なるようになるよー」
「ズレてるよねー」
「へへぇ」
「今何分?」
「30分」
「あと3分くらいだね」
「んーお金持ってくるの忘れちゃったー」
「君ってほんとに馬鹿だよねぇ」
「嘘。お金あるよ」
「そう。馬鹿なの」
「バス来たら僕は帰らなきゃいけないんだね」
「そのために乗るからね」
「なんでだろー」
「目的地へ行くための手段だからね」
「つかないで欲しいな」
「バスの存在意義の否定だね」
「帰りたくないなー」
「じゃあ還ったら
土に」
「僕ジョーダンで言ってるわけじゃないのにー」
「癒される?」
「効果抜群だよ…」
「また来れば」
「それもそうだ
家から出ればいいんだ」
「あ、来たね」
「はぁー
なんか今日バスつくの早いね」
「うん」
「明日もここにいる?」
「うん」
「そっか
じゃあね」
帰りも目で返事
しろはいつもここにいる訳では無いから
たまーにひとりが嫌な時とか、寂しい時とか
こうやって聞いたりして
安心したいだけ。
しろはきっとわかってる
だけど答えてくれる
バスに乗った後はゆらゆら揺れながら家に向かう
本当は帰りたくなんかないのに
毎日毎日家に行かないといけない
しろもうちに来るなら帰るのもいやじゃないのに
そうだ、いえに連れていこう。
多分来ないけどそれはその時に考えてどうにかしよう
しろが何言うかなんてその時しかわかんないし
明日の事考えて今日を乗り越えよう
しろ
「はぁ、」
「どうしたの?」
「別に」
話しかけてくるのは悠希(ゆき)
白鳩 悠冴の姉
はぁ、まったく
「あ、またうさぎちゃん?」
「うん」
「今日はなに話したの?」
「今日は……いや、なんでもない」
「そう。優しくしてあげるんだよ?」
わかってるよ
自分だからこそわかるしできる
本当の意味で黒鋼 三月(くろがね さんがつ)を守れるのは俺を置いて他にはいない
その嘘くさい笑顔すら守るから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 28