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同業者
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「あぁ、お疲れ様です架時(たなと)さん!」
駅のホームでゆらりと重く温い雰囲気の長身の男に声をかける
「やぁ雨柄(あまつか)くん
もしかして君もここに?」
ふわりともぐらりともつかぬ曖昧な仕草でこちらを向く
「はい!
俺も実は今日からこの区域の担当になったんですよ〜」
やんわりと毒気の抜ける笑顔に心の奥の方が痛む
「僕ら同業者なのにやる仕事は若干違うから区が違うと会わないもんね」
ちらりと見えた八重歯がなれない笑顔の下唇に喰い込んで血が滲んで居る
「ほんとに!しかも毎日何かと忙しいですもんね〜」
嚥下した唾液で下心を見破られないように取り繕う
「そうだな、この仕事が終わったら久しぶりに飲みに行かないか?
今日は僕が奢るからさ」
月光によく似た瞳が薄ら暗い電灯の点滅に影を落とす
「えぇ〜!いいんですか?
架時さんの方が仕事多いのに!」
いやに艶っぽい睫毛の瞬き、影、震えに手を伸ばしそうになる手を理性で留める
「もちろんだよ
どうかな、了承してくれたらこのあとの仕事も頑張れそうなんだけど」
花弁がはらりと落ちゆくような幽かな微笑みが心の表面に滲む
「是非!!
俺も頑張ります!
仕事が終わったら俺迎えに行きますよ!」
あなたに嫌われないためなら一部の隙もなく終わらせることが出来る
言葉にしてしまいそうな自分を諌める
「良かった
ありがとう雨柄くんと飲むと楽しくなってしまって
いつもつい羽目を外してしまうんだよ
楽しみにしてる」
俺と比べてあなたは大人で
その世辞のひとつにも俺は踊らされてしまうからずるい
「ふふ、架時さん
今日の仕事、ここに来て最初の大仕事なんです」
「そうか、確かに大仕事だ
僕達にしか出来そうにない」
にやりと悪戯っぽく口元を歪ませるその顔に釣られて俺も笑う
「えぇ、では行きましょうか」
視線をホームの線路へ戻すと丁度よく列車が来た
それに乗り込んでから辺りを見渡す
少し遠くに彼が見えるのを確認して手帳に目を落とす
対象者は25人ほど
それに比べてもやはり彼の仕事は多い
ここにいるほとんどが対象だからだ
少しの間そんなことを考えながら揺られていると衝撃と轟音に包まれる
仕事だ。
彼の後に続く
大きな鎌を持って仕事をこなす彼を横目に
白い翼で飛び上方から一人一人見つけていく
体が散り散りになってたり
柘榴の様に凄惨な姿になってしまった彼らにキスをする
一人
また一人
25人全員を光道へ導いた後仕事の記録をする
彼を見ると彼も仕事を終わらせて魂を船に乗せているところだった
魂を狩り終えた死神の鎌は形を変え
彼が船頭に立ち船を漕ぎはじめるとその姿は徐々に小さくなっていった
この世とあの世の境の川を慣れた手つきで進む
嘆く魂を冥府へ運ぶ彼を見送る
俺たちは同業者
けど仕事内容は決定的に違う
俺は死した魂を天国へと運び
彼は地獄へ運ぶ
純白の羽根を持つ俺と違って
彼は自らの羽を漆黒に染めて命に寄り添う
俺たちは同業者だ
だけどあの人はとても遠い
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