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一条堀川
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私のために親の大事を持ち出してくれた女を、私は殺めてしまった。
悔いても命は戻らない。
戻らないのだから私は前に進むしかない。
私は鞍馬寺を去ることに決めたが、町場のことは何一つ知らぬ。
まずはどこへゆけばいいのか。
私は巻三が見たかった。
今も鬼一法眼殿のところにあるに違いない。
山を下りて法眼殿の、一条堀川の邸宅に立ち寄った。
家中の者は一切不在。
よほど慌てて出かけたのか、屋敷内も何やらばたばたした感じになっている。
留守を幸いに手当たり次第巻三を探したが文書のかけらも見出すことができなかった。
そこで何をしている。
大柄な男が立ちはだかる。
僧形。
だが僧侶のなりではない。
武装。
僧兵か。
鬼一法眼殿ではないようだ。
では何者?
とりあえず、私は善意の第三者を装うのが良さそうだ。
女性(にょしょう)に頼まれて参った。
女性はこときれてしまわれたが。
こちら鬼一法眼殿のお宅か。
僧兵はふんと鼻を鳴らし、長刀を構えようとしたが、
えものをおろせ。
荘厳な声が響くと、僧兵は長刀の構えを解いて畏まった。
声のかたには小さな老人がいた。
小さいが、眼光鋭い。
宮中に上がるようなお衣装をおまといである。
こなたが鬼一法眼殿であろう。
私が畏まると、ずいずいと近づいてきた。
血の匂いを放ちつつ、なぜここにおられる。
とっさに考える。
もっともらしい言い訳を。
巻三をも見れる可能性をいや増す言い訳。
我ながら小利口で、えづきそうな気分だったが、それでも私はやりおおせた。
鞍馬寺で見習いをしております遮那王と申します。
上級見習いの段脆なる者が見あたらなくなり、寺裏の杉木立探しておりましたところ、茸取りの女性と差し違えておりました。
何があったかは存じませぬが、女性の茸籠にこれらの古文書があり、六韜と申せば界隈では、鬼一法眼殿の所収ならんと窺い知り…
段脆との関係は色恋、茸籠にあったは物盗りと推察し、持ち来た次第にて。
戯れ言うでない!
お嬢様がなにゆえに古文書を持ち出す必要がある!
大男再び長刀振りかざしたが法眼殿は仕草で制した。
なるほど血の匂いは屍脇を通って来た故か。
ご親切いたみいる。
このようなもののために、命取り合うこともなかろうに。
と冊子を文机の上に置かれた。
既に夜半を過ぎておる。
今宵は泊まって行かれよ。
あす、この鬼若に、寺へ送ってゆかせよう。
法眼殿のはからいで、私は自ら手にかけた娘の親の屋敷に、一夜の宿を求めることとなってしまった。
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