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出立
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秀衡様は私の気持ちを感じ取っておられるようだし、私を側面援護されようとお考えのご様子もありありと窺える。
だが、甘えて大丈夫なのだろうか。
仮にも頼朝兄上に従うなら、現体制下では朝敵になる。
平泉のご一党を巻き込むのだけは嫌だった。
そんなことを考えながら母屋の廊下を歩いていると、弁慶が廊下の曲がり目手前に佇んでいる。
声をかけようとすると、シ、と、人差し指を唇に当て、前庭を小さく指し示した。
前庭には秀衡様と泰衡様がいた。
ですから平氏は我々に、頼朝を討てと言うてきているのです。
それは違うぞ泰衡。
平氏は我々が、“従うかどうか”を見ておるのだ。
同じことではありませぬか。
違うな。
おまえが言うたのは、“我らを既に従えているつもりの”平氏じゃ。
ゆえに従えば“従ったがゆえに”、配下として組み込まれ、意のままにされてしまう。
ゆえに私は従わぬままに受け流す。
平泉はたれの支配も受けぬ。
されど…
私と弁慶は、そっとその場を離れた。
泰衡様のご懸念は、痛いほどわかった。
かのかたは、平泉の独立を脅かされることを恐れているのだった。
私たちがいると、平氏にその口実を与えてしまうことになる。
早々に発ったほうがよさそうだな。
ですね。
吉内たちに話しておきます。
明くる夜は名月だった。
私、弁慶、吉内、佐藤兄弟は、月明かりを頼りに、夜道を歩き出した。
館が十分遠ざかってから、私は館の方向へ、深々と一礼した。
弁慶たちも私にならった。
二里ほど行ってから、泉のほとりで小休止したが、美水はあれど食がない。
と思いきや。
これを。
佐藤兄が差し出したのは、二十ばかりの握り飯だった。
これは…
どうしたのだ。
口々に聞くと、答えは意外なものだった。
国衡様付きのまかないが、握っておいてくれました。
多分出立は今夜だろうと。
国衡様…
なんと行き届いたかたなのだろう。
ああいう武人に私もなりたい。
なれますとも。
弁慶が請け合ってくれ、他の者も頷いてくれた。
成長せねばと強く思った。
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