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悲しみの日々
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兄上には兄上の戦略があるのだろう。
されど乙若兄はこの世にたった一人だったのだ。
今若兄と今話しているような、こうした時間は一生持てないのだ。
園城寺では、どのようにお過ごしでしたか?
私に会いたいと、思ってくださっていましたか?
伺いたいことばかりである。
全成兄者も打ちしおれてしまって、体を動かす我らの傍らで、酒(ささ)を呷っておられることが多くなった。
我らとは、剣を交えぬが、弁慶とは時折立ち合う。
三番に二番は弁慶が勝つが、残る一番、兄上は、ものすごく見事な手で勝つのである。
吉内も佐藤兄弟も、目を皿のようにしてみつめる。
参考にし続けてし続けて、最近やっと弁慶から、小手一つとか取れるようになった。
ささやかな成長にすぎなかったが、我々なりの成果だった。
行家出奔
そんなある日である。
ひと修行終えて井戸端で体を拭いていた我らは、突然の、言い争いの声に驚かされた。
私は私なりに源氏を支えてきた。
所領をもらってどこが悪い!
行家叔父の声である。
怒りの瞳で頼朝兄の居室から出てきた叔父殿は、我々に気づいてたいそうばつの悪い顔をしたが、それでも怒りを収めようとはしなかった。
そして。
続いて出てきた頼朝兄上のほうが、叔父殿以上に怒っていたのだ。
所領を持たせるほどの働きをいつした!
言うてみよ。
たとえば?
諸国を行脚して目立ちすぎて、 熊野別当湛増に気付かれ、以仁王様の挙兵が露見する原因を作ったことか?
異母弟義円をそそのかすだけそそのかしておいて、逃げる際には見殺したことか?
それとも!!
冷たいと思っていた嫡男殿が今目の前で怒っていた。
以仁王様の死を、義円兄上の死を、頼朝兄上はちゃんと怒っておられたのだ。
それを押し隠していたのは、ひとえに、東国経営のためだったにすぎない。
兄上は、私たちを、ちゃんと弟と思ってくれていたのだ。
言い募られた行家殿は、もはや言い返すこともせず、
覚えておれよ三郎!
三郎ごときが源氏の棟梁面をするとは片腹痛いわ!
我はここを出やる!!
悋気に狂った女のように喚いて、叔父殿は鎌倉を去っていった。
ほとんど誰もついては行かなかったが。
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