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建礼門院
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建礼門院
薄く目を開いた。
蓮の花は咲いてなく、蝶も舞っていない。
どころか侍女や、僧侶がこちらを見ていた。
現世(うつしよ)だ。
おぐしが。
侍女らしき者が口を開いた。
おぐしが熊手にかかりまして。
無事お引き上がりになりました。
無事か。
思わず笑う。
逝き損なったを無事というか。
言葉は重宝だこと。
私は生きて現世にいる…
今上は?
我が子はどうなった?
まだ八つにもならぬあの子は!?
あのっ。
目をやると、侍女は既に袖を目に当てている。
少しずつ記憶が戻ってくる。
母上が抱いていた。
浪の下にも都の候ぞ。
そう言っていた。
母様!
浪の下に都は候いません!!
叫びたかった。
叫びたかったのに。
母上は私にも、入水促した…
中宮は、産むが仕事です。
常々、そうおっしゃっていた同じ口で、
私の子を…
母はどうなった。
問う己が声が冷たい。
お見事なご最期でございました。
答えて侍女がよよと泣く。
知るものか。
何か食べたい。
粥とかないか。
侍女は泣き真似をやめ、はっとなる。
お召し上がりもの…
たれかある、たれかある?
慌てて下がってゆく侍女の背にも、冷たい感情をぶつけている自分がわかる。
高倉はからだが弱かった。
私もだ。
私たちの子にしては、今上はしっかり育っていた。
そんな命を母上自ら、入水して殺したのだ。
栄華は嘘じゃ。
幻じゃ。
注がれた粥は熱かった。
ひりひりと、喉を焼いて胃の府に落つる。
偽りはもうたくさんじゃ。
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