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舞う
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夢幻
俺は今、何を見ているのだろう。
たれもが知っておる吉野の活劇は、主殿の見事な脱出で、弁慶さんの鬼気迫る守護、乱闘で、忠信さんの弓、偽名乗り、偽腹で。
でも今俺が見てるのは、静様の、涼やかな舞で。
しづやしづ
しづのをだまき
くり返し
昔を今に
なすよしもがな
白い直垂・水干に立烏帽子、白鞘巻の刀。
ゆっくり舞う姿に、僧兵たちが臆しておる。
それでも懸命に勇気を出して、
逆賊め!
魔物め!
と挑んで来るが、静様は舞の間に間に斬り結び、身をかわし、燕のように宙返りして、僧兵たちを蹴散らしてゆくのだ。
俺の知る静様は、武道の片鱗も知らない。
ただ優雅に舞い、花の顔容に、麗しい笑みを帯びるだけだ。
なのに今、目の前のあのかたは、むくつけき僧兵どもを軽々と、一人二人と戦い潰している…
ま、魔物は相手にするな!
義経を追え!!
追え!!
叫んでより上方、上千本のほうへと追ってゆく。
さすがに静様は追っていかず、何を思ったか俺を見、にっこりと笑んだのだ。
いささか喉が乾いた。
潤してくれるか?
寄り来たのは確かに魔物で。
ただ美しくただおそろしく、真白き雪、降り積む中、俺は静様のなすがままとなった。
忠義の弓
引く。
引く。
引き続ける。
主等がさらに上方に、逃れてゆく間を作るため、私は僧兵等を牽制する。
兄が全身で庇ったかたを、ここでむざと死なせたら、あちらの世界で待っておってくださろう兄上に申し訳が立たぬ。
奥州で、国衡様に、兄とともに主に付けられた日から、われらの日々は主とともに在った。
吾が義経じゃ!
むざと討たれまいぞ!
言いながら引きつけ、誤誘導して四半時、そろそろ頃合いだろう。
義経の最期を見届けるがいい!
と、腹かっさばく仕草とともに、背後の断崖に身を躍らせる。
主よご無事で!!
行き止まりの塔
かなり下のほうで、雪の激しく崩れる音がした。
三郎か。
忠信か。
無事を祈るばかりである。
この塔の先に道なしとする吉野の果て、周囲はぐるりと僧兵が取り巻いておるようだ。
もはやこれまでと主を見やると、まだその頬に諦観はなかった。
屋根破る。
奴らが突入してきたときには、我らは外じゃ。
そう言って、私の躰よじ登る。
引きずり出せええ!!
僧兵たちが突入してくる。
私の真上で逆立ちし、とああ!っと天井蹴破って上がり、差し伸べた手で私を引きずり上げる。
そして私たちは跳躍する。
私たちにはたずさの跳躍飛翔術がある。
手薄のほうへ跳ぶ…
我らはまだまだ落ち延びる。
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