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7話(4/5)
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タイミングがいいのか悪いのか先生が不在の為、勝手に治療をさせてもらうことにした。
しかし何処に何があるか分からないので時間が掛かりそうで。
「先輩はそこの椅子に座って待ってて下さい」
「ありがと。でも自分で出来るから平気だよ」
「え、でも」
そんな千尋の心配をよそに奏は消毒液を難なく探し当て、慣れた手つきで治療を始めた。
あまりの手際のよさに関心してしまう。
(それにしては馴れすぎ……普通あんな直ぐに見つけられるか?)
あんなに簡単に見つけられるのは、よくここに来ているからなんじゃないのか。
慣れているのもそのせいなんじゃないのか。
疑いの眼で見つめていればそれに気付いた奏がフ……と笑った。
「よく怪我してたからこういうのは慣れてるんだ……っと。これでいいかな?」
絆創膏を貼った手を見せる。
頷いて返事をすれば奏は片づけを始めた。
「あの、カナ先輩……」
「んー?どうかした?」
片づけが終わり振り返った奏に、
「オレ、力になれることがあれば何でも協力します。だからその、無理しないで下さい」
力になりたいんだ、と告げるときょとんと目を丸くさせてからクスクスと笑い始めた。
「ちーちゃん何か勘違いしてるよ」
「え?」
「この怪我。僕が苛められてると思ったんでしょ?それなら違うから」
「違うんですか!?でも、それなら何で……」
明らかに誰かに突き飛ばされていたのに、それが苛めじゃなければ何だというのだろう。
何で?と、問い掛ける千尋に奏は「あのね」と続けた。
「校則違反、とはちょっと違うんだけど。まぁ、見逃せない事があって注意したらあの結果、という訳」
よくある事だよ。
だから大丈夫なんだと笑顔を浮かべる奏。
「それでも、」
「僕ね、小さい頃に親からちょっとした虐待されててさ。だからか分からないけど目の前で誰かが傷つくのは嫌いなんだ」
「虐待……?」
「そう。ヒーロー気取ってるみたいで馬鹿みたいでしょ?」
まるで馬鹿にしていいんだよ、呆れていいんだよ、と言っているように奏は笑った。
とてもじゃないけれど同じように笑ったりは出来ない。
それ所か、
「……馬鹿なんかじゃないです」
頬を勝手に涙が濡らしている。
驚いた顔をする奏だが、涙は簡単には止まらないようで。
「カナ先輩は優しすぎるんです……でも、それでもし先輩が今以上に怪我したら心配する人がいるんですよ」
「ちーちゃん……」
「だからそういう意味では馬鹿です、ほんとに……っ」
男の癖に人前で泣くなんてプライドはないのか。
そう思っていても涙は止まってはくれなくて、むしろどんどん溢れてくる。
「やさしーんだね」
「優しくなんか、」
「ううん。そうやって言ってくれたの、ちーちゃんが初めてだよ。僕のこと、思ってくれてるから泣いてくれてるんでしょ」
ありがとう。
微笑む奏は千尋の頬を包むように手を添えると、涙が浮かぶ瞳に軽く唇を寄せた。
「カナ先輩、くすぐった……ん、ゥ!」
「涙、止まったよ?」
悪戯に舌を出して笑う奏。
唇に残る熱に驚きと動揺でぱくぱくと口を動かす。
「可愛い……」
でも、確かに涙は止まっていた。
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