アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
シェアリング
-
--------------1
SIDE「S」
オレと城嶋には本来なら接点などなかったのだ。
共通していたのは年齢くらいで、オレは高校からの帰国子女だったし、育った街も、大学も、職種も違う。共通の知人もいないはずだった。
それが今こうして、人生をともに過ごす仲になるとは。
きっかっけは数年前、オレが遊びにいったバーで知り合ったある男で、その男に同じ頃城嶋も出会うのだ。
男は30そこそこのの若い投資家で、仕事もできたしもともとの家柄も憎たらしいいほどに上流で、すべてにおいて自信に満ちあふれてた男だった。負けを知らない人種だ。
オレは偶然隣り合わせて、城嶋は遊び仲間の雑誌モデル経由で、それぞれその男と知り合い、やがて、男にお互いを引き合わされ、意気投合した。
意気投合というのは、男に教えてもらった遊びを二人ともいたく気に入ってしまったということだ。
同時に偶然にも俺たちは「兄弟同然の縁」をもっていたことを知った。
それがわかった時、反射的に殴り合いを始めてしまったが、その頃すでに俺たちは新しい遊びを知ってしまっていた。自分の人生の楽しみ方を知ってしまっていたのだ。
二人でこの事実をめいいっぱい楽しもうと、妄想を巡らせ、協定を結んだ。
お互い、目覚めさせてしまった、根深く厄介な性癖。決しておおっぴらに世間に公表できる性癖ではない。
だからこそ、以来、オレと城嶋は心の多くをさらしあった。
今では二人とも、親友と言える域に達していた。
(俺たちを引き合わせてくれた男の方は、何かしくじったらしく、日本から消えた。負けない人間などいないのだな)
◆
恋人は、オレより二つ年上だ。
守谷サンという。
たぶん誰が見ても、まずその見目の良さに目を奪われるはず。
アメリカの大学を卒業後、そのままサンフランシスコにある父親の会社で経営を学んでいる。とは建前で、28になっても、まだふらふらと遊んでいるのだ。自由で気まぐれな人だ。
出会ったのはオレがまだ大学生の頃。夏休みに昔の友達を訪ねて滞在していたNYのゲイクラブ。
顔も身体も性格も、そしてセックスも、全てが好みで、とにかく必死で口説き落とした。
初めての恋人だ。そしてきっと生涯ただ一人の。オレはそう思っていた。
「……番号、変わってるって思わなかったんですか?」
その夜、オレは帰国中の恋人とほとんど一年ぶりに会った。
「だって、変えたら俺から連絡こなくなると思うだろ?おまえは変えねえよ」
無邪気で憎たらしい笑顔。勝ち気な眉。大きく輝く瞳。オレが一目惚れした顔。
「ま、実際その通りだったんですけどね。おかえりなさい。守谷サン。今度はいつまで?」
「さあな、おまえ次第じゃねえの?」
いつも突然帰国して、オレの都合はおかまいなしに勝手に振る舞うのには慣れている。
一年も連絡がなかったから、さあ、いよいよオレは用済みかなと、気弱にならなくもなかった。
「寂しかったぜ、向こうでさ、ひとりでさあ」
「一人?……守谷さんが?」
「あぁ?」
「いいえ。オレも寂しかったですよ。……ひとりで」
守谷サンは知らない。
オレがとっくに知っているってことを。
城嶋は大学卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに進んだ。
つまり、そのタイミングで守谷さんと出会った。
城嶋は、俺と違って身長こそ守谷さんより低いけど、遊びに慣れてて、男性フェロモンの塊みたいなヤツだ。バイセクシュアルだけど、とにかくゲイウケがいい。
たぶん声をかけたのは守谷さんのほうだろう。守谷さんのタイプど真ん中だ。
今も建築設計の研究所勤務で日本とサンフランシスコの2拠点生活をしている。
城嶋がサンフランシスコで暮らしているアパートは、守谷サンの父親の会社が所有している。当然、そこには守谷さんもいる。
それをオレが知っていることを、彼は知らずに、こうして、可愛らしくとぼけてみせる。
「で?」
で、オレもとぼける。
「ん?」
「で、オレを呼び出したのはどういう気まぐれです?」
「何?自分の男呼び出して、悪いか?」
「アレ。オレってまだ守谷サンの男でいいの?」
「……おまえ、いつからそんな風ないやみったらしい口聞くようになった?」
すっと目を細めて、冷たく睨むのは、彼いつもの威嚇みたいなもので。
昔からオレはちっとも怖くないんだけど、彼はそれがオレには有効だと思っている。
そしてここはそういうバーで、オレが守谷サンに負けたふりして、そっと尖った唇にキスをしても、誰も振り返らない。
守谷サンの唇はオレに塞がれると、ゆっくりと笑った。
その笑った形をなぞって、軽く甘噛みすると、くすぐったそうに睫毛が震える。
もう一度、こんどは、キツく。あ……と、彼の唇から小さなため息のような声が漏れる。
「……オレ、引っ越したんですよ。品川のマンション」
「へ〜、たいしたもんじゃん?」
にんまりと形よく笑ってみせる彼が、とても悪いヤツだってこと、オレも城嶋も知っている。
オレたちは、アナタが、すっかりオレたちを忘れてる時間に、随分、アナタを分かち合って楽しんだんだよ?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 32