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薄荷煙草
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それが恋だと気づいたのはいったいいつだったのだろうか。
北校舎の2階のはずれに美術教室はあった。
窓の外、手を伸ばせば届くところに枝を広げた大きな銀杏の樹が、日差しを和らげている。
授業のない時間、昼間はほとんど人気もない。
南校舎に渡る廊下を通るとき、独特の油の香りが漂った。
芸術選択で美術を取らなかった田嶋には、最初なんの匂いなのか分からなかった。ただ、顔をしかめる友人たちとは違い、なんとなく嫌いになれない香りだった。
「それやばいぜ、キまってんじゃないか?」
田嶋がはじめて美術室に入ったのは、1年の夏休みだった。
バスケ部だった田嶋は、夏休みの間もほぼ毎日体育館に通っていたのだが、ある日、聞きなれない声に呼び止められた。
「田嶋だっけ?」
汗まみれのTシャツを脱いで、洗面台で頭に水を浴びていた時だった。
顔を上げると、ヒョロリと背の高い男が、背後に立っていた。
美術教員の貴戸だった。試験の監督として、何度か教室に来た頃がある。話すのははじめてだ。
「午後は自主練だろ?」
「……はあ」
女生徒に人気のある教師だった。まだ20代だったと思う。確かにちょっとないくらい整った顔立ちをしていた。長い髪を頭の上で無造作に結い上げて、絵の具だろうか、汚れたジャージ姿なのだが、どこかファッション誌のモデルのような着こなしで、こんな片田舎の公立校の教師をやっているというのが全く似合わない男だ。
それが穏やかな声で、人懐っこく話しかけてきたのだ。田嶋は訝しげに目を細めた。
「田中先生には話してあるからさ、ちょっと付き合えよ」
「……なんすか?」
「まあ、ちょっと、俺の部手伝って」
「はあ?」
力仕事でもさせるのだろうか。
田嶋は、入学した時すでに身長が190近かった。子供の時からずっとバスケットをやってきたので、引き締まった筋肉は見るからに「使えそう」な身体だ。
背中を押して促され、渋々汗で湿ったTシャツをもう一度着ようとして貴戸に止められた。
「いいよ、そのままで」
「え、でも……」
連れていかれたのが2階の美術室だったというわけだ。
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