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薄荷煙草・・・・2
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部屋にはスケッチブックを持った美術部員が数人、ほとんど女子だった。
上半身裸の田嶋が教室に入ると、きゃーと歓声が上がった。こんなの聞いてないと田嶋は顔を赤くする。
教室から出ようとするのを貴戸に腕を取られて、部員たちの前に連れ出された。
「はい、今日のクロッキーモデル、バスケ部の田嶋くんです!拍手」
拍手と歓声が上がる。
「よろしくお願いしまーす!」
どうやら、美術部が夏休みにクロッキー会をやっていて、運動部の生徒をモデルに駆り出しているのらしい。今回は田嶋が捕まった。
「……あのー先生、俺無理っすよ」
「あー大丈夫、おまえここにただ立ってるだけだからさ。とりあえず、5分ずつ」
「ずつ?」
「考えない、考えない。よし、じゃあ、はじめて。まず5分!」
そう言って、貴戸は田嶋に適当に力を抜いたポーズをつけると、タイマーをセットした。
5分じっとしてろという事だが、意外と5分は長かった。
その上じっと自分を見つめる複数の視線はなんとも居心地が悪いものだ。
だが、教室に漂うあの香りが、まあいいかと思わせた。
それに……。
5分経って、少し体をほぐした後、また別のポーズを5分。
その度に貴戸の手が田嶋の体に触れ、色の抜けた柔らかい髪が鼻先をくすぐった。
「おまえ、県予選レギュラー取ったんだって?」
「え……」
「すごいな、1年なのに」
顧問と話したときに聞いたのだろうが、はじめて話す美術教師が自分のことを知っててくれたのが妙に嬉しかった。
貴戸は指に挟んだ鉛筆をくるくると弄ぶのが癖らしかった。
白くて、細い指だった。だが、女性的な感じはしない。
田嶋の指の方が無骨ででかいが、すごく年上の大人っぽい指だと思った、
そして貴戸の体からも、あの油の香りがした。
好きだな……と思った。
◆
夕方まで美術部に付き合って、帰りは貴戸が車で送ると言ってくれた。
「ほんとはいけねんだけどな、夏休みだし、特別だ」
古いイタリア車だった。
「親父の車だよ。ボロだろ?」
「いや、めっちゃかっこいいと思います」
「え?そう」
そう言って、右手に座る田島を見上げた。
「しっかし、まじでかいな、お前」
面白そうに笑う貴戸に、田嶋は少し拗ねたように唇を尖らせた。なんとなく、子供扱いされた気がしたからだ。
「そうだ、お前ちょっと付き合えよ」
「え?」
「ラーメン食って帰ろう。ちょっと遠いけど」
そう言って貴戸が寄ったのは、田嶋がいつもは行かない国道沿いを少し入ったところにある中華食堂だった。
古い店内を小綺麗にしてあり掃除も行きい届いている。客もそこそこ入っていて、知ってる人は知っている店なのだろう。
田嶋にメニューを見せながら「中華そば、これはマスト」と言い、さらにエビ炒飯、トマトと卵の色鮮やかな炒め物と青菜炒めを頼んだ。
「お前もなんか好きなの頼んでいいぞ」
「あ、いや、充分です」
「え?そう?もっと食えるんじゃない?」
「い、いや、家にも飯あるし」
「ま、そだな」
あ、また子供っぽいことを言ってしまった。田嶋は渋い顔で水を飲んだ。
そしてふと、思いついたことを口にした。
「あの……美術室の匂いなんですか?」
「え?……ああ」
貴戸はまた割り箸を指に挟んでくるくると弄んでいたが、思い当たって、笑った。
「臭かった?」
「い、いや、俺、なんかあの匂い好きで……」
「え?お前、それはやばいぞ」
友人と同じことをいう。
「はは、あれ、テレピン油って言って油絵具を溶かしたり薄めたりするのに使うの」
「ああ……」
「俺も一日あそこにいるしさ、匂うよな」
「先生も、絵を描くんですか?」
「ん?まあ、一応な」
「先生の絵、見たいです」
「……そう?」
貴戸は意外そうに田嶋を見た。確かに絵を見たいなんて柄ではない。
それでもそれからなんとなく、休み時間や放課後、田嶋は美術室にやってくるようになった。
貴戸が絵を描いているのを見たり、雑用を手伝ったり。
たまにまたクロッキー会のモデルをやった。
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