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毛皮のマリー・・・・1
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・・・・1
昼間の自分の部屋はどうにも居心地が悪い。
全面窓の高層階角部屋は明るすぎるし、夜景としては価値のある眺めも、日中はまさに地に足がついていない感覚で、ただっぴろいリビングといい、高い天井といい、自分には全く不相応な部屋だと、葛木は未だに思っている。
だから普段は分厚い遮光スクリーンを下ろして、昼を夜にして過ごすわけだが、今日は葛木が経営するサパークラブの若いホスト達が、5.6人もガヤガヤと騒がしく集まっていて、スクリーンは全開。逃げ場はない。
「葛木さん、これもいいんですか?」
「ああ、もうなんでも持っていって」
今日の葛木は、着古したスウェット姿で、いつもはきっちりセットした髪も洗いっぱなしで、自宅とはいえそのラフな姿は、初めて来た者にはちょっと意外で新鮮だろう。
時々、こうして服や靴、時計などを、まだ駆け出しの若いホスト達に好きに持って行かせた。物に執着はない。
「ああ、でもお前らでかいからなあ。サイズあわせてみろよ」
「いや、全然、いけます!やべ!グッチっすか!」
「偽モンだよ」
「えっ!」
「うそうそ。ショップに持って行けば多少のサイズ直しできると思うから」
冷静で達観したような顔はしているが、葛木もまだ30そこそこだ。
長くこの世界にいて、友人らしい友人もいないし、こうやって若い連中が慕ってくれるのは嬉しい。
趣味はいつの間にか料理になった。それも凝ったプロなみの料理を、レシピ通りにきっちり作っていくのが好きだった。それをこうやって振る舞えるのも楽しみの一つだった。
今日は昨日から骨つきの仔牛のスネ肉を煮込んでいる。
どうせ、白米で雑にかき込まれる運命なのだが。
「葛木さん、これ、本物っすか?」
「ん?」
それはクローゼットの奥に眠っていたはずのリンクスの毛皮のロングコートだった。
「……ああ、偽物じゃないの……」
鍋をかき混ぜていた手を止め、葛木はそのコートを見つめた。
「いや、めっちゃかっこいいっす。これ」
「汚れてるし、質屋に持ち込んでもいくらにもならねえよ。……それは置いといて」
「……えーそっすかー?でも……」
コートを手に、諦めきれない様子でもう一押ししようとするのを、先輩ホストがさりげなくたしなめ、クローゼットに戻させた。
かすかに葛木の声色が変わったのを感じ取ったのだろう。
窓の外に目をやる。
夜になれば、そこは見慣れた街へ続く光景になる。
葛木は、黙ってタバコを咥え、もう随分長く使っている真鍮のライターで火をつけた。
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