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ずれ
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最初に違和感を覚えたのは、6月のことだった。
僕が兄さんと一緒に過ごす姿はもう学校になじんでいた。
水泳部も、兄さんの送迎があると了解されているから、周りよりも早く帰ることにも何も言われない。
高校では水泳はやらないという健斗はわざわざ僕が部活が終わるのを兄さんと待ってた。
「遅れてごめん」
「あ、アキ」
「いや、大丈夫だよお兄さんと勉強してたんだ」
笑みを浮かべてこちらをみた健斗は、定期テストの勉強を兄さんとやっていたらしい。
兄さんは体は弱いけれど頭のいい人だ。
「へぇ、僕にも教えてよ」
そう返すと、二人はそろってうなずいた。
そのうちそろったしぐさになぜか心の中がもやっとした。
「今日から俺、お兄さんと先に帰ってるよ」
「へ?なんで」
いきなり言い出されたとき、特に何も考えてはいなかった。
兄さんと健斗が仲良くなることは、恋人として、弟として喜ばしいことでなければならないから。
でも、突然言い出されたことに言いようのないものを感じた。
「だって、アキ7月から大会だろ?頑張ってほしいし…」
たしかに、1年生ながら選手として選ばれたのでもう少し練習については考えなければならないと思っていた。
きっと、これは健斗が甘やかしてくれる一貫なんだ。
「そ、そっか。ありがとう、健斗」
「いや、気にすんなよ。もう日も長いしちょっと遅くても一人で大丈夫だろ」
その「大丈夫」はまるで、いままで健斗の口から聞いたことのない大丈夫のような気がしたけれど、僕はそれを見て見ぬ振りした。
そうだ。
いつでも僕は自分から目をそらす。
このとき、もっとちゃんと健斗の表情を、兄さんの表情を見ておくべきだったのかもしれない。
だけど、僕は一人で帰れるから。
兄さんは、一人で戻ろうとするとガラの悪いのに絡まれたり、途中で貧血を起こしやすくなる時期だから。
そんな言い訳ですこしずつ見えないひびを深く刻んでしまった。
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