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我慢
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その声に驚いて重たい頭をゆっくりとあげると、早川先生は呆れたようにこちらをみていた。
「あ…」
「体調悪かったら保健室に来いって約束したよな?」
そう言いながら僕の額に手をやる。冷たくて気持ちいい。
「…ちょっと熱もありそうだし、保健室おいで」
おいで、と言いつつも既に先生は僕の鞄を持ってる。何故か一瞬驚いたように鞄を見てたけど理由まではわからない。
教室は突然の訪問者にひそひそとみんな話している。次の噂は先生をたぶらかしたとかなのかな、とぼんやりと思ってしまう。その性格の悪さが自分でも嫌い。
「だ、大丈夫」
保健室には行きたくないから先生の持つ鞄を引っ張る。
「アキ、保健室行って来なよ」
心配そうに様子を見ていた有紀が声をかけてくる。でも、やだ。
なんで構うかな、僕は大丈夫なのに。
頭がうまく回ってないのは自覚してたけど、無性に悲しくなったりするのはなんでだろう。
三葉もこちらの様子を見てるみたいで、なんだか3人に囲まれて怒られてる気分になってくる。
また顔をうつむけていたら先生が背中をさすってくれた。
「怒ってないよ、心配してる」
なんで、そんな事言うんだろう。
心配なんてしなくていいのに。ずっと大丈夫だったんだからもういい。
口を開いたら酷く傷つける言葉を言ってしまいそうで何も言えなかった。
「アキ、お願いだから保健室で休んで。アキが倒れたりするの、僕がこわいの」
ギュッと抱きしめられて、体がこわばった。
だけど、その僕よりも小さな体に、それが有紀だと気がつくのはすぐのことだった。
倒れるわけないと思う。
だけど、泣きそうな声で言われたら僕が悪いんだと思ってしまう。
どうしたらいいのか分からなくて視線を彷徨わせたら、優しい顔をした先生と目が合う。
「大丈夫、他の人いないから」
小さな声。きっと他の人に聞こえないよう配慮してくれたんだろう。
わざわざ様子見に来てくれた先生に、これ以上時間をとらせるのはいけない事だろう。
そう自分に言い聞かせる。
保健室を思い浮かべて少しだけ心臓が速くなってくる。でも、大丈夫だ。あそこに兄さんはいない。
ぎゅっと目を瞑った僕を見て、どこか痛んだと思ったのか有紀は心配そうに「大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫…ほ、保健室行くから」
震えているのを悟られたくなくて早口で言うと、有紀は僕の体を離してくれた。
先生が伸ばしてくれた手は見ないふりをして立ち上がる。
「ノートとか、よろしくね」
出来るだけ自然な笑顔で有紀に言うと、有紀も笑ってくれる。三葉も頷いたのを見て、教室の扉に向かう。
わざわざ先生が来てくれたのにそれを無視して行くとかダメだと思うんだけど、いっぱいいっぱいだった。先生は黙って僕の少し後ろをあるく。その距離に安心した。
大丈夫。
少し休んだら出て行くから。
今度は見つからない場所に。
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