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家族3
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side:英人
強張る体を抱きしめて、そっと背中をさする。
ポロリとこぼれた言葉は聞かなかったふりをした。
「お兄ちゃんだからさ…心配なんだ」
分からなくていいよ。そう思いながら声をかける。このまま立ち尽くしていたら秋が消えてしまいそうだ。
「いつまででもここにいればいい。
大丈夫じゃなくなったら、声をかけて」
秋は何も答えない。
秋が、何故大丈夫であることに拘るのかは本当の意味で分かっているわけではない。
大丈夫じゃなくなることはそんなに怖いことだろうか。弱みを見せた途端に、彼を喰らい尽くす化け物が潜んでいるとでもいうのか。
秋の手から受け取った子機はうんともすんとも言わない。秋の母と名乗る女は、わざわざ学園に「重要な話があるのに繋がらない」と言ってまでこちらに繋げてきた。
「馬鹿な女」
声に出さずにつぶやく。
俺たちの母親は決して大和撫子のような人ではなく、豪快で思い切りの良い人だ。「あんたなら大丈夫!」なんども言われた言葉に押しつぶされそうになったことなど一度もなかった。
同じ言葉も、同じ行為も。
その想いと関係によっては救いにも重石にもなりうる。
「お兄ちゃん」と思っていいよ、と伝えた自分は、救いと重石のどちらになりうるのだろうか。
今自分に擦り寄る体温が本当に欲しているものが自分ではないことが、ひどく悲しかった。
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