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とまどい
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side:英人
生徒を殴った。
それは後悔していない。
「言っちゃいけないこともあるよなあ…」
あの言葉は、絶対にダメだ。
まして、少しでも心を渡した相手には。
その後悔を知る日は遠いのかもしれないけれど、必ず来るはずだから。
「まあやりすぎたな」
傷ついた顔をしていた秋の顔が頭から離れない。ここに至るまで放置していたのは俺の責任でもある。
数日経っても篠原元は入院したままだ。
それは当然だと思うし、彼氏である健斗がそのそばに寄り添ってるのも理解できる。
それでも、秋は毎日学校に来ている。
一度も、病院に行くこともなく。
その姿に少なからず「兄弟がひどい目にあったのに知らない顔をしてる」という見方をする人が増えているのはわかっている。
もちろん、知らない顔をしているわけではないと思う。
「あ…やだ………やめっ……!」
魘されることが格段に増えた秋のことを見守る。
近づけば、その気配で更に苦しむことはこの数日で痛感していた。ただ、自傷行為に及ばないように見守りながら、意識が少し浮上したタイミングで音を立てて目を覚まさせる。
目が冷めれば、秋は普段通りに振舞うことを望んだ。
「眠れた?」
「…はい!大丈夫です」
白い肌だと隈が目立つ。
少し伸びて耳にかけていたはずの髪を、あえて下ろすようになったのはそのせいだろう。
何もできない自分がムカつく。
そして、それは、被害者を守れない不甲斐なさからくるものだけではない。
数日前よりもずっと痩せたように見える小さな背中に、無意識に伸びた腕が視界に入って慌てて下ろす。
抱きしめてやりたい。
大丈夫だよ、怖かったらここにいていいよ、いかなくていいよ。
その言葉を掛けてやりたい。
それは、「大丈夫」でありたがる秋を苦しめるだろうと思っていても。無条件に、守りたい。
この感情は、少し生徒に同情している教師としての心からだろうか。それとも……
本当は分かっていたけれど、今日もまた知らないふりをして秋の後ろから部屋を出る。
きみの心があの男から離れるまでは
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