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猫事件 伍
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「別に気にしてない」
「ぷっ__くくくっ!」
少し視線をそらして言うと、途端に坂口の笑い声が聞こえてきた。
何事と思ってみてみれば、普通に笑っている。
奏を見ながら。
「なぁに騙されてんの、らしくないなぁ」
奏は、ようやく自分が坂口の思うツボにはまったことに気が付き、今まで気づかなかった自分を恥じるように赤面した。
顔ごと反らすと、その視線の先にまた坂口が来て、それでまた表情を見てから笑い、「らしくないない」という。
「なんだよ」
その反論は、自分の顔面のせいで全く効果をなしていない。
それでもなお言ったのは、奏のちょっとした意地だ。
「らしくないんだよね、ほんとに」
坂口はようやく奏の視線の先に現れるのをやめると、夜空を仰ぎながらそういった。
なにが、とでもいうように、奏は首を傾げる。
それを察知したのか、坂口はまたもこちらを向き、笑んだ。
「奏って、いっつも俺の近くにいんのに、俺の思い通りになってくんないの。
なんでかなぁなんて、昔っから思ってたけど、やっぱり”そう”だったみたいだね」
「”そう”って、なにが?」
奏は坂口の意思がわからない。
首を傾げることしかできず、そのほかに意思を知る方法がないと思うと、自身の無力さ故に表情を曇らせた。
「あっはは」
坂口は軽く笑ってから、奏の方を向いた。
その表情は真剣で、少し恐怖心を感じるくらいだった。
そして、その表情を悲しみにゆがませてから、「それきいちゃう?」という。
「 」
奏は、無言でいることしかできなかった。
それにこたえることができなかった。
なにせそれは、坂口を傷つけてしまうと思ったからだ。
それでも坂口が口を開くので、奏は顔を地面に伏せた。
「”そう”っていうのはねぇ__」
奏は耳をふさぎたかった。
それでもふさげなかったのは、自分で自分を縛ってしまったのか、それとも坂口がこちらを向いているからなのか。
誰にもわからない問いを、自分自身に問い続ける。
感じるのは、頭が空っぽになっていく感覚だった。
「奏の心が__。
奏の心が本当に開いているのが、俺じゃないってこと」
__ほら、やっぱりそうだった。
自分の中で、絶望が奏にそういう。
それはやはり奏だった。
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