アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
猫事件 捌
-
「なんか、もうあの部屋入りたくないなぁ」
「まぁ、言いたいことはわかるよ」
奏が億劫そうにつぶやくと、ようやく奏から離れた坂口がそう返してうなずいてくる。
付け足しで「血なまぐさいもんねぇ」なんて言ってきたものだから、奏はその反応に溜息をつきたくなった。
奏が帰りたくないのにはもう一つ、否、いくつかの理由があるのだ。
まず、最初は猫の血の匂いだ。
坂口も言っていたが、それは予想以上にトラウマな匂いを醸し出していた。
あの肉が腐った匂いのなかで、気絶せずにいられる人間なんてあんまりいないんじゃないか、と奏は予想する。
次に、やっぱり猫違いかもしれないということだ。
今頃言ったら、山姥にでもなって食われてしまいそうだ。
というか元々奏は人見知りなので、それを話す勇気なんてこれっぽっちも備わっちゃいないというのが現状だった。
最後に、時間的な問題もある。
たしか「ちょっと外の空気吸ってきますね」みたいなことを坂口が言って、それに半強制的につれてこられたのだ。
坂口に抱き着かれていた時間が、約10分を2回なので、要するに20分は外にいたことになる。
それは、せめて煙草だと勘違いされてもらっても、あきらかに長すぎる時間だった。
絶対、何をしていたかを聞かれることは間違いないうえに、さらに吐いてましただなんて言ったら人生が終わってしまいそうだ。
もう奏は完全にびくびくとした小鹿のような状態だった。
__やばい、本当にどうしよう。
「奏真っ青、大丈夫?」
「大丈夫だったら、こんなになってない」
心配して伸びてくる坂口の腕を振り払うと、奏はそそくさと玄関へ向かっていく。
待ってくれないのだと分かった坂口は、慌てて奏の後を追うように歩き出した。
「ま、待ってよ奏」
そういわれるたびに奏は、追いつかれまいとスピードアップするため、坂口も歩きではなく半分走っているような状態になっていた。
しかし、奏はなにを思ったのか急に止まったので、坂口はスピードを落としきれずに奏の背中にぶつかった。
げふっと変な声を上げて奏がよろめき、あわててそれを坂口が支える。
「ごめんね?」
奏はそれに反応を示さなかった。
__これを機に坂口に開けてもらうか。
「謝罪の意があるんなら、俺のついでに開けてくれよ」
「はいはーい」
がらりと扉を開けると、その目の前には、近藤が死んだ目をして立っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 139