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最悪の出来事 壱
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「嘘だろ__」
「よしよーし」
奏の小さな声を遮るように、近藤は現れた猫をなでる。
近藤の猫を見つめる笑顔に、奏は心のどこかで悪意を感じていた。
その猫は、手足が白かった。
依頼を受けたそのものの姿だったのだ。
黒と白、どうやら親猫の色が違かったらしくそれを受け継いでいる。
奏はもうどうしようもなく落ち込んでいた。
その隣で坂口も落ち込んでいた。
同じような表情をしていて、まるで写し鏡のようだったので、口元に笑みが浮かぶ。
「なぁ、奏」
坂口に呼びかけられ、奏は一瞬で表情を戻した。
もし、こんな表情を見られたら、それこそ誤解されてしまうだろう。
『ひどい奴だ』、と。
「なんだよ…」
表情がさっきいくら緩んでいたとしても、心の中では当たり前だが沈んでいた。
声が暗くなっているのも当たり前で、それも坂口にとっては普通と思える事だった。
「俺さ、会社辞めよっかなぁ」
「馬鹿かお前」
__どんだけ自己中心的な人間なんだよ。
とぼけたことを言ってくる坂口に、軽めに腹蹴りを食らわせてやった。
その時に思わず笑みがこぼれていたことを、奏自身は知らなかった。
坂口はぐへっという声を漏らしながら、べたりと地面に伏せた。
腰だけ浮かせた形で、顔面を土に着けた坂口は、またいつものような笑みを浮かべる。
「奏やっと笑った」
「え__?」
自分が今笑っていたのかと慌てて顔に両手をあてる奏に、坂口はまた笑う。
ぷっと吹き出して、立ち上がった坂口に、睨みをきかせて「なんだよ」と奏は言う。
そもそも、さっきの笑みがカウントされていなかったのは良かったと思った。
それに、この状況下で笑えるのは、坂口のようなポジティブな人間だけだろう。
「こんなとこで笑えっかよ」
本心を口にした。
「笑えるよ、普通に」
坂口らしい返事だった。
「奏がいるからね」
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