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書庫
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それから俺は、化け物から屋敷の案内を受けた。けど、まぁ、広い広い。働いてる人が住んでる部屋に書斎、それに書庫や室内プール、温室、自家栽培所まであった。ここだけで自給自足できそうな規模だな。おい。
「俺は会社に行ってくる。アミラの言うことをよく聞くんだぞ」
「はーい、いってらっしゃーい。あなたー」
思い切りふざけて言ってみたが、通じねぇんだよなこれが。化け物性格からして、こんな言い方したら、絶対に怒るだろうけど。
あと、隙があれば逃げる気満々なんで、そこは文句言わんでよ。
「じゃ、何しよっかトール君」
「……」
アミラにそう言われ、俺が迷いなく向かったのは、書庫。
扉を開けると、壁際に隙間なく置かれ、本棚がお迎えをしてくれる。どの棚にもびっしりと本が入っており、その数は100を軽く越えてそうだ。どれも古そうだが、手入れが行き届いているのか、状態が良いものが殆どなのが救いだろう。
「これでいっか」
そのひとつを手に取った俺は、適当なページを開く。そこに並んでいたのは、英語とも、日本語とも違う見た事のない文字の羅列。
「やっぱり、全然読めない」
という事は、これがこの化け物達の共通語ということなのだろう。ここまで日本語に翻訳されてたらどうしようかと心配していたが、異世界パワーは話し言葉までしか発揮されなかったみたいだ。
普通のやつなら、ここも翻訳されてればと思うのかもしれない。だが、俺にとってみれば、好都合のなにものでもない。
「トール君、きっと君にはこれ読めないと思うよ」
俺の手元を覗き込んだアミラは、残念そうにそんな事を言っていたが、それで良いんだよ。
「読めないって事は、これを解読できればお前らと筆談出来るって事だろ」
協力をしてもらうにも、情報を得るにも、意思疎通ができなければ話にならない。かと言って言葉は絶望的だし、身振り手振りには限界がある。
それならもう、もう文字で伝えるしかない。文字なら覚えてしまえば簡単だし、必ず通じる。こんないい事づくめの方法なんて早々ないだろう。さすが俺、グッドアイディア!
そうと決まったら、さっさと文字を覚えてやる。
「アミラ、これなんて読むんだ?」
「ん? これ読んでほしいの?」
「ここだけでいい」
とんとんと指先で単語らしき部分を叩くと通じたのか、アミラが俺の指差す本を覗きんでくる。
「これは、綺麗だね」
「綺麗……。これは?」
「夜だね」
「じゃあこれ」
「草だね」
そんな感じで、アミラから聞き出した意味と単語を紙に書き写していく。それで分かったのが、こっちの世界の文字は、ローマ字のように母音と子音でひとつの文字として成り立っていること。日本語と同じ50音だということだ。
これなら、そこまで時間をかけずに覚えられそうだ。
「……よし、五十音表はこんな感じだな」
俺は出来た表を満足そうに見つめる。我ながら感心の出来だ。後はこれを叩き込んで、俺の知ってる単語の言葉の意味とこいつらの意味が一緒かという擦り合わせをしないと。これで違ったら、色々面倒だしな。
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