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「シェーフ!」
調理場に行って、シェフに向かって大きく手を振ると、こちらを振り向いてくれた。
年齢は30前半。糸目のせいか、あまり見ることのない、青の瞳。ぽよんとしたお腹。少しふっくらした顔。触手族の中では少し低い身長。
ゆるキャラを擬人化したような人物が、ぽよんぽよんと俺に近づいてくる。
触手族が擬人化すると、大体は化け物たちのように美形になるが、やはりそれにも慣れというものがあるらしい。うまく魔力をコントロール出来ないものは、目の前のシェフのようにゆるキャラもどきになる事が多いらしい。
何度も擬人化するうちに慣れて美形化していくらしいが、俺からすればシェフはこれでいい気がする。可愛いし。ぽよぽよしてて気持ちいいし。美形ばかりでキラキラしてるこの屋敷で、シェフだけが癒しポジションだわ。
「トール様。どうなされましたか?」
『厨房貸してくれ』
そう書いて見せた瞬間、シェフの顔がムンクの叫びみたいになった。おう、びっくりした!
「そんな! トール様に万が一お怪我がありましたら、旦那様に叱られてしまいます!」
『料理は得意だから』
「ですが……」
『なら、近くで見てて。危険だったら、止めに入ってくれていいから』
「……、分かりました」
よっしゃ! 粘り勝ち!
「そうと決まれば、食材、食材」
俺はキッチンの扉を片っ端から開いていく。人間の肉があったらどうしようかと思ったが、予想に反してひとつも無かった。シェフ曰く、化け物の意向で人間肉は仕入れることをやめたらしい。
「それはそれで助かるか」
冷蔵庫開けたら、人間の死体がありますなんて、どこぞのサスペンスドラマだよと突っ込みたくなっちまう。
「まっ、材料はこんな感じか?」
調理台の上に広げたのは、バター、小麦粉、魚の切り身、ジャガイモ、レタス、トマト、卵、油、あと調味料各種。
「思ったよりも元の世界の食材が多いんだな」
出てくるものが似たり寄ったりだったから、まさかと思ってたが、そのまさかだった。これはとても助かる。
「何作られるのですか?」
『魚のムニエルとポテトサラダ』
「ムニ? サラダ?」
『まぁ、見ててよ』
俺は手を洗うと、早速調理にとりかかる。
ここは、なんでも1からやろうとするおやっさんに叩き込まれた知識が役立った。普通なら、マヨネーズを1から作るなんてことしねぇもんな。
「よしと完成」
「おお! なんですか! この装飾品のように美しい料理は!」
隣でシェフがめちゃくちゃ感激してたので、取り分けたら、何故か拝まれた。
いや、俺別にそんなすごい料理作ってねぇーぞ。
「すごい! なんという美味しさ! 私の料理が色あせて見えます!」
「あ、ありがとう」
「是非ともレシピを私に教えてください!」
ここまで感激されるとかなり照れる。けど、ま、食卓に並ぶ料理のレパートリーが増えるのは俺としては嬉しい限りだ。
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