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④
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真夜中。漆黒に染めながった空で輝く綺麗な星々が、地上を照らす時間。殆どの者が寝静まった中で、煌々と魔力による火によって輝く屋敷がある。フィンガーの潜んでいた屋敷だ。
「流石、シェフだな」
「褒めてもなにも出ませんよ、旦那様」
そう言いながら、対触手族の加工をされた武器を持つシェフは、いつものポヨンとした体つきでは無い。
人間の見立てでいうなら、10代後半くらいだろう。綺麗な唐墨色のストレートの髪。あどけなさが残る顔立ち。少し大きめの藤色の瞳。背は低く、俺の腰より少し高いくらい。
シェフの本来の仮の姿がこれだと言ったら、トールはどんな反応をするだろうか? 少し考えて、思わず笑う。彼なら面白い反応をしてくれそうだ。
「今回は、お前が魔力操作の達人だったのが巧を制したな」
「俺の十八番ですからね」
くるんとシェフの手の中でナイフが回る。
本来、シェフの本職はフィンガーのような邪魔者を消したり、情報を仕入れたりみたいな事をしている。彼が調理場にいるのは、趣味と言っても過言ではない。本人は「敵を騙すならまず味方からー」なんて言って、魔力制御がまだ出来ない料理人として潜んでいる。
何故かトールがシェフを料理長と間違えているがな。まぁ、シェフの腕は確かで、今は休職している料理長の代わりをしているし、元の世界とこっちの世界での意味の捉え方の違いみたいなのがあるのかもしれない。
シェフ本人も楽しんでるから、敢えて言う必要も無いだろうと放っておいてる。後でバレた時、トールに触手を引っ張られないと良いけどな。
「で、どうしますか? こいつ」
「くそ! 離せ!」
「そうだな」
俺は拘束魔具によって、ぐるぐる巻きにされたフィンガーを見下ろす。色々と苦しめてやりたいが、それよりも先に。
「言え。あれをどこにやった」
トールの居場所を聞くのが先だ。
「くっ、ははは!」
「何がおかしい」
「まさか、お前があんなペットにそんな執着してるとはな。笑うしかないだろ」
「俺が何に執着しようと関係ないだろ。はやくあれの居場所を言え」
「お断りだ!」
フィンガーが言い終わった直後。カリッ。となにかを砕くような音が微かに響いた。刹那、口から血を吐き出し始めた。俺は目を見開き、未だに血を吐き出す奴に近付く。
「お前まさか!」
「ふっ、お前が……苦しむ、最大の、選択……だろ……? カハ」
すぐにわかった。こいつは毒を飲んだのだ。まさか、ここまで俺に憎しみがあったとは。正直、驚きしか浮かんでこない。
「じゃあな、ばけ、もの」
嘲るようにおれを笑った後、フィンガーの体が地面に倒れた。確かめなくても分かる。
フィンガーは死んだ。
それと同時に、最悪の事実も突き付けられた。
トールに繋がる糸口が、完全に切れた事を。
「……トール」
煌々と炎に焼かれた空の下、俺はただ呆然と、彼の名前を呟くことしか出来なかった……。
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