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④
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「名前?」
「悪いかよ! 知らねぇんだからしょうがないだろ!」
思わず叫ぶ。もう一度会えたら、名前を聞いこうって思っていた。けど、タイミングどうこうの問題じゃないと気付いたのだ。そうだよな。それなりの時間一緒に住んでるのに、今更ながら《あなたの名前はなんですか?》なんて、聞くのは失礼すぎる。
だから、レオが手紙を書くと聞いた時、チャンスだと思ったのだ。こういう機会なら、どさくさに紛れて聞けんじゃないかと。かと言って、面と向かって聞くのは恥ずかしいから、こそって書いたのに……!
化け物は、真っ赤になっている俺の耳に唇を寄せると、低い声で囁いた。
「俺の名前は、コバルト、だ」
コバルト。その言葉が心の中で響いて弾ける。とても、綺麗な楽器の音を聞いたような波が、耳から全身に浸透していく。
「トール、呼んでくれ」
請われるままに、化け物の名前を口にしようとした瞬間。ニヤつくリオンと俺よりも顔を真っ赤にしたレオが視界の隅に移り、一気に現実へ引き戻される。
そうだ、こいつらがいた! それを自覚したせいか、こいつの名前を呼ぶのが、急に気恥しくなってきた。かっと顔に体温が集まるのが、嫌でも分かった。
「だ、誰が呼ぶか! あほ!」
「なんだ、照れてるのか?」
「照れてねぇ! 触手巻き付けるな!!」
「ヒューヒューお熱いねぇ」
「はわわ!」
「茶化すなリオン!!!!」
頭から煙が出そうだ。タイミングよく、馬車が来たので、化け物の触手を引き剥がし、どたどたと乗り込んだ。くそ、最後だっていうに、まともにレオとリオンの顔見れねぇじゃねーかよ。
「あれが世話になった。こっちに来る時は寄れ。あれも喜ぶ」
「おうよ」
「はい!」
化け物が乗り込み、馬車が動く。
「トールにいさーん! またねー!」
「今度は、怪我すんなよー!」
「レオー! リオンー! 元気でなーーーー!!!!」
外から聞こえてきた声に、俺は窓なら身を乗り出し、手を振るレオ達に手を振り返す。
どんどん2人が小さくなり、完全に見えなくなった頃、馬車に体を戻した俺は、少し寂しくて、顔を伏せる。すると、触手で頭を撫でられた。
「別に会えなくなる訳では無い。また会いに来ればいいだろ」
『いいのか?』
「俺の同行が必須だがな」
はいそうですか。
「なぁ」
「なんだ?」
「その、色々と迷惑かけて、ごめん。あと、探しにきてくれてありがとう。……コバルト」
沈黙が落ちる。やっぱり、日本語じゃ伝わらないかと思い顔を上げると。
ニヤついたムカつく奴と目が合いました。
「人間の言葉で言われても分からないな。こっちの言葉で書いてくれ」
「おま! 絶対分かってんだろ!」
ポカポカと化け物ーーコバルトの体を叩くと、嬉しそうに彼は笑っていた。
その表情に、余計顔が赤くなって、叩く力が強くなったのは秘密だ。
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