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※物語の関係上、章の名称を変えました。内容は変わっておりませんので、ご安心ください。
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あの後、トールは泣き疲れたのか、俺の腕の中で、眠ってしまった。
「トール」
今だトールの頬に残る涙をそっと拭う。俺は、トールが元の世界に戻るために、どれだけ頑張っていたかを知っている。世界に戻れる方法があると分かった時に、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた事も覚えている。だからこそ、わかる。
きっとトールは、俺が考えるよりもずっと傷付いたはずだ。悔しかったはずだ。それを考えると、俺も苦しくて、辛かった。
「トール。1度戻ろう」
愛しい恋人を抱き抱え、俺は師匠の城に戻る。
師匠は、1歩も動かずに、そこにいた。自分がどんな酷いことをしたのか、きっとこの人は分かっていない。
そもそも1000年も昔から神として降臨しているこいつに、家畜としか思っていない人間の心理なんて、理解できないだろうし、理解しようともしないだろう。それは長い付き合いで分かっていたが、今回のはどうしても許せなかった。
「トールは見つかったか?」
「あぁ。お前のせいで、泣いてた。お前はいつも何故そうも簡単に他人を傷付ける」
「別に真実を言っただけだ」
「ふざけるな!!!!」
俺は元の姿に戻る。最大限まで魔力解放ているせいか、触手が今までにない以上輝き、俺達を取り囲んでいる。普通の奴なら、魔力暴走の生き地獄に陥っているだろう。残念ながら、1番ダメージを与えたい奴はケロッとしていたがな。
「トールを泣かすのは誰であろうと許さない!」
「それが真実と言うものだ。どちらにせよ、トールは知らないといけなかったことだろう。それで我にどうこう言うのは筋違いとだと思わないか?」
「っ!」
「それに、我は元の世界に戻る方法を知っているのだぞ。喜ぶなら分かるが、なぜ泣く? なぜ怒る? 我には理解ができん」
ぎりっと歯を噛みしめる音が口の中で響く。確かに、師匠の言い分は、最もかもしれない。彼の語った事実だって、トールが後々知らないといけないものだったのだろう。
真実は、きちんと伝えるべきだ。それは分かっているし、正しいと思う。だとしても、それでも。
「傷付くと分かっていて、それを伝える相手の心境も考えずに、ありのまま教えるのは、1番最低な行為だ」
「なら、偽れと?」
「違う! 伝え方を考えろと言ってるんだ!」
「そんな面倒なこと、我がするとでも?」
「……だから、俺はお前が嫌いなんだ」
俺は、未だに眠るトールを触手で優しく撫でる。こいつが好きだと気付いてから決めたのだ。なにがあっても、俺がトールの笑顔を守ると。
「師匠」
「なんだ?」
「師匠の言うことが正しいなら、何故、こちらの人間は死んでいるのに、生きているんだ?」
「言っただろ。向こうの世界では死んでいると。いや、死んだ扱いになるように改変しているの方が正しいか」
「どういう意味だ?」
「人間の世界で、人がいなくなればそれなりの騒ぎになる。行方不明だと尚更面倒なことになる。だから、それを無くすために、事故で死ぬ筈だった人間だけしか連れてこれないよう魔法陣自体にリミッターが刻み込まれている。その方が、対象と繋がりがある者に、その対象は死んだと暗示をかけるのが容易いからな」
なるほど、なら、向こうの世界では、死んだと思い込まされているだけで、実際はこちらに送り込まれていると言う訳か。
関係者からしてみれば、たまったもんじゃないだろうな。
「3日間だけは向こうに帰れると言ったな。それは、行ったあとにこっちに戻って来れるのか?」
「場合によっては戻ってこれない」
「場合?」
「一人で行った時だ。盆とは元々、死者が現世に戻る為の行事だ。こちらの世界の人間は、その死者に紛れて元の世界に戻る為、向こうでは魂のみの状態になる。だから、そのまま何もしなければ、本来あるべき世界に行くだけだ」
「なら、俺が一緒に行けばどうだ?」
「帰っては来れるだろうな」
師匠の言葉に、俺は胸をなで下ろした。元々、一緒に行くつもりだったからな。それなら、何も問題は無い。
「だが、お前には相応の対価が必要になる」
「それは?」
「お前の魔力だ。こちらに戻ってきた頃には、普通の触手族と同じか、それ以下になってるはずだ」
「それなら悪いことは何も無いだろ」
「いや、お前の場合は、周りが屍と化すぞ」
師匠の言葉に、俺は眉を顰めながら、首を捻った。補給しすぎで、相手が過多になって死ぬならわかる。だが、どうして、俺の魔力がなくなると、屍が大量に出来るんだ? 意味がわからない。
俺の表情で師匠は考えを読んだのだろう。ため息混じりに口を開く。
「急激な魔力の枯渇は、体のバランスを著しく狂わすのと同時に、元の量を補おうと周りにいるものから魔力を所からまわず吸ってしまう。お前の魔力を通常に戻すとなれば、国1つ分の者達が持っている魔力を全部吸い取っても、足りるか足りないか位だ」
「……」
「きちんと考えろ。そして選べ、コバルト。恋人のわがままに付き合って、周りの仲間を全て生贄にするか。なんとか恋人を言い聞かせて、このまま幸せな時間を過ごすかのどちらかを」
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