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④
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「おやっさん! このケーキ食っていい!?」
「勝手にしろ」
「よっしゃ! コバルトさんも食べようぜ!」
サクサクとケーキを切り分けてく山岸はめちゃくちゃ上機嫌だ。それはそうだろ。こいつにとってみれば初めてのおやっさんのケーキだ。テンション上がるのは当たり前だ。俺も山岸の立場だったら、確実にテンション上がってるな。
「コバルトも食べてろよ。おやっさんのケーキ美味しいぜ」
頷いたコバルトが山岸の切り分けたケーキを口にした途端、とても懐かしい味が口に広がった。
変わらない、忘れられない味。
「美味いだろ」
ーーコクリコクリ。
まるで人形のように頷くコバルトに笑みを浮かべていると、けたたましい音を立てて、店の扉が開いた。そちらに視線を向けた俺は、目を見開く。
「透琉が帰ってきたって本当なの!?」
そこにいたのは。
「かあ……さ」
あの日よりも少し小さくなった、母さんだった。
やっと、やっと会えた……!
しかし、おやっさん達同様、母さんにも俺の姿は見えないらしい。店を見回したあと、山岸に掴みかかっていた。
「珊瑚くん! 本当なの!? 透琉が戻ってきたって!!」
「ちょっ! 落ち着いて透子さん!」
「だって、透琉が……いるんでしょ!! なんで? なんで珊瑚くんには見えて、私には見えないの!? 透琉! いるのでしょう! 返事して!!」
「母さん! 俺はここだよ! 母さん!!!!」
母さんに触れようとして、体がすり抜ける。それが今の俺にとってどんなに苦しかったか、辛かったか。言い表す言葉が見つからねぇ。
「透琉!!!!」
「……」
そんな母さんの肩を、コバルトは至って冷静に叩いた。驚いたようにコバルトを見る母さんに向かって、コバルトは魔石に何かを書いて見せ、俺の輪郭をなぞるように手を動かす。
すると、ハッとした母さんと目が合った。いや、若干母さんの視線がさ迷っているところみると、あったように感じたの方が正確だろう。
もしかして、コバルトが俺の位置を教えてくれたのか?
「透琉、そこにいるの……?」
「いるよ。母さん」
俺は、少し息をつくと、はっきりと言った。
「ただいま。母さん」
直後、母さんは目を見開いたあと、ボロボロと泣き始める。いきなりすぎる反応に、俺は思わず慌てちまった。けど、次の母さんの言葉で俺も涙が溢れた。
「今、透琉が、あの子が、ただいまって。笑ってるのが見えたの」
「母さん……母さん!! 俺、戻ってきたよ」
色々話したい。あっちの世界のことも、あっちであった事も、向こうで出来た仲間の事も。
けど、その前に言いたい。
「コバルト、ありがとう」
「?」
「お前のお陰だ」
コバルトが背中を押してくれなかったら、俺があのままうじうじしてたら、きっと俺は母さんに会わずにこの世界を後にしていた。
きっと、一緒に来てくれたのがコバルトじゃなきゃ、こうやって勇気を出せなかった。
「本当にありがとう」
笑顔を浮かべる俺につられてか、コバルトも笑みを浮かべる。
その綺麗な笑みに、俺はまた惚れ直したなんていうのは内緒だぞ。
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