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4話「歩いた」
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そして、今現在に至る。
「あのさ・・」
「うん・・」
「て、手を、」
「あ、ごめん!」
掴んだままだった手をパッと放す。
自分がしたことに対して驚きすぎていて、俺はボーッとしていて。
相手の千田くんも驚いていて、ボーッとしている。
「ごめん、引き摺り下ろして・・学校、」
「え?サボるんだろ?」
「え、真面目!?」
「いや、だから降りたんじゃん!」
焦ったように笑いながら、千田くんはそう言った。
何だ、本当にサボりたかったのか。
衝動的に降りた駅。
もう見えなくなってしまった電車。次に下りの電車が来ると言うアナウンスが入るのを、どこか意識の遠くで聞きながら。
なんとなしに周りを見回す。
ぶくぶくと吹き抜けて行く風をうけつつ一周ぐるりと見渡せば、なんとまあ、何も無い駅に降りていた。
「ここ来たことある?」
ポツリと独り言のように聞く。
「ないなぁ」
あちらも同じように返して来た。
「んー・・どうする?違うとこいく?新宿とか、渋谷とか」
「んー。俺別にどこでもいいよ。むしろここでいいし。その辺テキトーに歩き回らない?」
「それでいっか。あきたら他行こ」
「うん」
気が合う、のかもしれない。
俺は結構知らない駅とかで降りてブラブラ歩くのが好きだから。本原たちともよくそれをやるし。
ブーッ ブーッ
「ん?」
「え?」
ズボンのポッケに入れていた携帯がブルブルと震える。
取り出して画面を見れば、救馬から連絡が入っていた。
[サボり魔!]
その後に白い変な顔をした人間のスタンプがつけられていた。
それから次々にサボり魔サボり魔と他の連中からの連絡が次々に入って来る。
「わー」
「何?」
「本原たちが文句言ってる」
「え・・あはは!サボり魔連呼されてるじゃん!」
画面を傾けると千田くんはそれを覗き込んで楽しそうに笑った。
俺はちょっと連中に呆れつつ、でもまああまりサボるなよという心配のあれなんだろうと理解して、[明日はちゃんと行く]とだけ打ち返してからそれをポケットに戻した。
ついでに通知は切っておこう。しょっちゅうポッケでブルブル言われるとくすぐったい。
「でもあれかなー、堂々と制服来てたら通報されるかな?」
「あー。かもなー」
とりあえずこの駅で降りてみよう。
そう言って2人で改札を抜ける。
(せっかく仲良くなれそうなのに、通報されたら気分下がるなあ)
なんて考えつつも、駅の階段を降りて歩き出す。何となく決めた方向、その道を、2人並んでブラブラと。
「あ、川」
「え?」
千田が指を指した。
つられるようにその方向を見ると、確かに。少し下った先に土手と川が見える。
「川見たい」
「行こ」
「いいの?」
「どうせ暇だし、ここ何あるのかわかんないし」
言いながら、俺はさっさと歩き出した。
学校があるのは大分都会の方だけれど、降りたこの駅は随分田舎だ。
高いビルは遠くに見えるくらいだし、大きなマンションもあまりない。
密集した住宅街の間に広めに取られた畑やら、薄暗い竹林やら。
聞いたことの無い名前の保育園の横を通り抜け、知らない小学校を遠目に見ながら川まで歩く。
その間、別に目立った会話はしなかった。
「あ、猫」
と俺が言えば、
「白いね」
と千田が返したり。
「あ、犬」
と千田が言えば、
「あんま可愛くない」
と俺が返したり。
本当に、これでいいのかと疑うくらいのあれだった。
今俺とこうして学校サボって一緒にいて、コイツ本当に良かったと思ってるかなぁ、とか。そんなことが心配になるぐらいに。
大体初対面の奴を無理矢理電車から降ろして朝から学校サボらせて2人きりで遊ぶなんて無理があったと、今更ながらに千田に謝りたくなった。
(つまんないだろうなぁ、今、絶対)
チラチラと、横目で千田を見る。
整った顔。
垂れてもつっても、どちらでもないその目は、色んなものをグルグルグルグルと見ている。
(でもまぁ・・俺はけっこう楽しいかも)
そんなことを考えた。
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