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5話「話した」
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「デカッ!!」
思わず叫ぶ。
遠くから見た川はそれほどでもなかったのだが、近くまで来てみると、目的地にしていた河川は大分幅が広いものだった。
「おー・・何か、あれだな。水ざぶざぶとかしたかったのに、広すぎて手が出せない」
隣にいる千田も驚いているようで、唖然としたままポツリとそう言った。
ザブザブ・・俺もしたかったのに。
「土手から見てるのが丁度いいかもな」
「確かに。結構流れ早いし。入ったら流されるかもね」
2人で苦笑いを浮かべてから、少しだけ土手を下って川岸に近づく。
「っつーか考えたらタオルも何も持ってなかった。濡れたらどうする気だったんだろ」
今度は困った様な顔で千田が言った。
「それ俺も思った」
今日はハンカチもティッシュも家に忘れて来た。
大体母親がテーブルの上に出しておいてくれるのだが、急いでいて取り忘れて家を出たわけで。
「これ何川?」
「さあ・・」
ドスッと草の上に座り込む。
制服はまあ、汚れないだろう。雨も最近降っていないから地面は乾いているし。
ブワリと風が吹く。
すう、と息を吸い込めば、春の匂いがした。
「・・・」
「春っぽい匂いする」
「っ・・俺も思った」
隣に座った千田が、急に考えていたことを言うものだから驚いた。
顔を見合わせて「やっぱ?」と言い合って。
それからまた2人で川を見る。
これ、楽しいのかな。
俺は楽しいんだけど、大丈夫かな。
「・・ぁのさあ、」
「んー?」
のんびりした声が返って来る。
「楽しい?」
「・・え?」
座り込んで、リラックスした体勢に入り込んでいた千田が、目をまん丸くしてこっちを見た。
もとから大きめの目が、飛び出しそうな程見開かれる。
「いや、何か初対面で急に一緒にサボらせちゃったし、何も無い駅降りちゃったし。俺いつもは結構喋るんだけど、何か今うまく話見つからなくて、黙ること多くて・・申し訳ないなーって」
心底。
心配していたことを口に出す。
「え・・お、俺も、心配で、」
「え?」
「だから・・俺の方こそ、いいないいなって言って、無理に連れ出してもらってサボらせちゃったなあって」
こっちを見ている千田の顔が、みるみる申し訳ないというそれになっていく。
まさかまさかと心配したが、千田の方も同じように感じていてくれたらしい。
そう分かると、
「あ?・・」
力が抜けた。
「え?」
「千田ってさー!!」
「っ・・びっくりした・・え・なに?」
「もっとこう、クールで!!俺みたいなタイプ苦手だと思っててさー!だから格好いい会話しようとか、めっちゃ電車の時から悩んでて!!」
「ああ・・は?なにそれ」
「だからー!!こんな・・、こう、そう、俺みたいに悩んでるタイプじゃなくて!!コイツつまんねー無理だなー、みたいな!軽く付き合って無理ってわかったらバッサリ切っちゃうみたいなさ!」
「え?」
「そういう、クールな感じに思ってたから!今びっくりした!!」
「・・あはははははは!!それこっちの台詞なんだけど!!」
「え?」
「お前見た目デカくてしかめっ面してて怖いし、中学の時めっちゃ荒れてたって噂すげー聞くから、めっちゃ怖い人かと思ってさー!下手なことしたらボコられるとか警戒してたんだよ!」
腹を抱えながら、千田は急に声をデカくして笑いながら言う。
その姿にまたびっくりして。
また気が抜けた。
「何それ。え?俺しかめっ面してる?怖い?」
「怖い怖い。黙って無表情じゃんほとんど!」
「えー、うっそ。気がつかなかった」
女子みたいな会話してるなあ、と思って。
少し笑えて来る。
「何だよもー、俺と同じくらい気にしいじゃんかよー!」
楽しそうに笑って、千田が俺の隣で足をバタバタとさせた。
「それ今俺も思った。何だよ気ぃはってたのにー」
「そんなに緊張しなくて良いよー。俺、誰といても沈黙になるときあるし」
「ほんとかよー、もー。でも良かったわ。クールで怖い人じゃなくて」
「こっちの台詞だから。真面目にビビってたから」
「いや俺怖くないよ?ほんとこんなだから」
案外似ている人間かもしれない。
なんて思って。ちょっと嬉しくなった。
出会って数日経って、初めて会話した千田愛。
予想と違って、意外と話しやすい。
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