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7話「別れた」
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「結局1日ダラダラしたな!」
ニッと隣で笑う千田に、返すように笑ってみせた。
昼飯を小さな公園に一本だけあった桜の木を見上げながら食べて。その後はまたぶらぶらとして。結局、違う大きな公園にたどり着いたので紙飛行機を折って遊んだ。これが中々楽しい。
千田も色んな折り方を知っていた。不思議と。
そうして夕方くらいになると、もうそろそろ他の学生も返り始めていることだろうと2人して帰路についた。
元の駅に戻って来て、今度は下りの電車を待つ。
「1日サボったのとか初めて過ぎて、何かドキドキというかハラハラした」
「マジ?俺はじめっからそんなん思わなかったなー。あ、サボろーくらいのだった」
「あはは。宮崎ってそんな感じする」
鞄を地面に下ろしながらベンチに腰掛ける。
自動販売機の明かりに一瞬目を奪われながら、千田の方を向いた。
「・・あれ?そう言えば名前知ってんだ」
「え?ああ。沢野達から宮崎の話しよく聞くから、その内覚えた」
「んー」
「中学のとき荒れてたってのも、沢野達から聞いたよ」
「あー、まあ、それはあれだろ。違うクラスの元中の奴が流してるのが伝わって来たんだろうな」
はあ、と溜息。
実際荒れていたが、それも中学3年の始めくらいまでだ。
「荒れてたのに、うちの高校みたいな進学校来れたんだ」
「んー」
「宮崎って頭いいの?」
「良くはないだろうなー」
「んー。でも来たじゃん」
「んー・・・まあ。色々あったから」
飲み物を買いに行こうかどうか迷いつつ、ローファーをカポカポと脱いだり履いたりする。
辺りが薄暗くなって来た。
「色々?」
「色々」
一瞬ゆっくりと目と瞑って言った。
それ以上聞かないで、と伝えるように。
正直、あまり喋りたくないのだ。
「・・何か怖そうなのに友達いっぱいいるからさー。怖かったけど、仲良くはなりたかったんだよねー」
「俺と?」
「っそ。だから今日遊べて良かったわー。超楽しかった」
ニコニコと笑う千田を見て、何となく嬉しくなった。
そう言ってくれて、悪い気がする奴はいないだろう。
「なら良かったわ。俺も楽しかったし、俺も話してみたかったし」
「そうなの?」
「んー。留年生って初めてだから、格好いいし。背高いし。ちょっと気になってた」
「そんな珍しいかなー。俺が2年の時とか2人くらいいたのに」
「へえ。なんだそういうもんか」
「んー」
ひょいと千田が立上がって、そのまま自販機の方い歩いて行く。
(ああ、何か買うのかな)
そう思って、俺も買おうと財布を探す。
ガトン、と。
飲み物が落ちる音が、2回した。
(・・・2回?)
「ジュースで良かった?」
「え?」
スっと目の前に差し出されたのは、炭酸のジュース。
「え・・えっ?」
「今日1日付き合ってくれたお礼。安すぎる?」
「いやいやいや!え?いいよいいよ。金、出すから、」
「いいって。年上だから。格好つけさして」
立ったままの千田が少しかがんで、俺の顔を覗き込みながら格好よく言ってくる。
なんて奴だ、と。
ちょっと格好よすぎてときめきそうになった。
「え・・ごめん、ありがと」
「謝んなくていいから」
「うおー・・今度なんか奢るから!」
「あんま気にしなくていいよ。俺バイトしてるけど、お前してないだろ」
「え?・・千田ってバイトしてんの?」
「してるよー?」
そうしてまた、隣に千田が座る。
なんとなく、さっきよりも距離が近い様な感じがした。
多分、そう感じるだけだ。
「なんの?」
「普通にカフェ。学校終わってからちょっとやるだけだけどね」
そう言って、隣でプシッとジュースの蓋の開く音。
俺も受け取ったそれの蓋を開ける。
同じように空気の抜ける音がした。
「へー、すごいな」
「すごかないけど・・俺一人暮らしでさ」
「え?!」
思わず飲もうとしていたそれから口を離して千田の方へグルンと向き直る。
「あはは。なんていうか、ちょーっと色々あって今親と距離置いてて。そんで、まあ、家賃だして貰えるから、その上小遣いまで貰う気にはなれなくて。で、働いてんの。あ、ちゃんと許可取ってるよ?」
そう話す相手はやっぱり妙に大人っぽく、同時に色っぽく見えた。
電車が来ると言うアナウンスが流れる。
「うわー、えー・・・すげーな、一人暮らしかー」
「んー」
「怖くないの?」
「何が?」
「え・・1人って」
「怖かないよ」
また笑った。
「へー。いやほんと凄いわ。今度遊び行っていい?」
「あー、いいよいいよ。っつうかもう、沢野とかめっちゃ泊まってるし」
「そうなの!?え、行く!!」
「来い来い。あんま騒ぐなよ、壁薄いから」
そんな会話をしながら千田がケータイを開く。
つられるように俺も開くと、連絡の通知あ数十件と、着信が入っていた。
「あれ?」
「ん?」
「ちょっとごめん」
またすぐに電話がかかってきた。
見知った名前がディスプレイに表示されるのを見てすぐに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
《もしもしじゃない。今どこ》
聞き慣れた声が低く響く。
ああ、こりゃ怒られるな、と思った。
「あー・・父さん怒ってる?」
《怒ってるじゃなくて今どこにいるか言いなさい》
「あー・・のー・・えっと、篠顔って駅」
《そこで、何してるのかな》
「・・すんません。学校サボってました」
《お説教をします》
「はい」
《丁度いい。今その辺走ってるから向かえに行く》
「え!?友達いるんだけど!!」
《謝って今すぐ南口に来なさい》
「は・・はい・・!!」
ブツリと電話が切れた。
「あ・・殺されるかも」
「宮崎、どうした?」
「あー・・ごめん。親が迎えに来るって・・サボったの、何か、バレてて・・お説教だって」
「え!?え、ごめん、俺のせい、」
「いや違うから!むしろ付き合わせたの俺だし!千田も親御さんにバレてたらごめん!!」
「いや俺は、いいよ。どうせ怒らないだろうし」
「まじ!?いいなー!!・・あー・・どうしよ」
「え・・お父さん、だったの?」
「んー・・」
正座させられて怒られている自分の姿しか浮かばない。
「あー・・がん、ばる・・がんばれ俺」
「うわー、ほんとごめん」
「いやだから、お前のせいじゃないから。っていうか、付き合ってくれてありがとう」
「え?」
「1日楽しかった!」
ニッと笑って返すと、やっと落ち着いたらしく笑い返してくれる。
「俺も楽しかった。ありがとう」
そう言って。
今日1日で一番嬉しそうにしてくれるから、何でだろうか。
どきっと、胸が動く。
「・・・お、俺、ここで、親待つね」
「ああ、まじ?じゃあ俺、次ので乗って帰るね」
「うん」
何だろう。
やっぱり笑顔が、可愛い。
ごとんごとんと電車の音がし始めた。
別れが近いと感じた瞬間、妙に今日という日が恋しくなった。
「また、サボリじゃなくて、遊ぼうぜ」
ポツリと。
すごく名残惜しそうすぎて、焦るくらいに。
残念そうな声が出た。
「うん。今度は土日にしような。怒られない日」
「うん。ごめん一緒帰れなくて」
「大丈夫だよ。っていか、お前こそ大丈夫?」
「平気・・慣れてる、から」
「しっかりしろー」
「んー」
帰りを考えると気分が重くなるけれど、目の前の千田の困ったような笑顔を見ると少し元気になる。
電車がホームに入って来た。
ああ、今日はお別れだ。
「千田」
「ん?」
徐々に速度を落とす電車。
「ほんと、ありがと」
ガトン、ガトン、とゆっくりと音が聞こえる。
「うん。俺の方こそ」
ゆっくりゆっくり落ちて行って。
高い音を出しながら、止まる。
「じゃあ、」
「ぁ、」
「また明日。学校でな」
ニコリと笑みが見えた瞬間、やっぱりドキンと、胸が高鳴った。
「おー!また明日ー!じゃーな!」
乗り込んだ千田に手を振る。
ドアが閉まって、数秒して。車両がぎゅいぎゅいと音をあげて走り出した。
また手を振って。振って。
千田が見えなくなっても、電車を見送った。
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