アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8話「乗った」
-
「大輝」
「ぁ、いた!」
駅の南口から走り出て、すぐそこに停めてある車を見つけて駆け寄った。
運転席からこちらを見ていたのは、父。
父と、呼んでいる女性。
「今日仕事は?」
「早く終わって、救馬くんからケータイに連絡入ってんの見たんだよ」
かったるそうに喋っているのはオサムさん。
オサムというのはこの人のいわゆるあだ名で、本名は山本美奈保(やまもとみなほ)さん。
この人は、まあ・・・なんというか。
「なっちゃんは・・?」
「夏生さんはもう帰ってるんじゃない?」
この、宮崎夏生(みやざきなつお)という名のうちの母の、いわば恋人である。
つまり家の母親とはレズカップル。
もともと母はバイセクシャルで。父親と別れてからの一時期はひどく遊ぶ人になっていた。色んなバーとかを渡り歩いて、結局出会ったのがこのオサムさん。
男装バーで働いていたこの人をちょっと遊んでやろうと声をかけてドハマりしたらしく、それからというもの関係が続いてもう何年。
俺も色々とお世話になっている人。
母親とこの人が同性というのは、初めは気にしたが今は別にどうでも良い。逆に、この人でないと色々と家族関係が大変なことになっていただろうとも思うくらいに。
母親のことは「なっちゃん」。若い内に俺を生んだというのもあってか、あまり母親と言う感じのしない人で、いつもそう呼んでいる。
逆にオサムさんのことは「父さん」。母よりもいくつも年下で、俺からしたら年上の友達くらいの歳であるこの人は何だか色々と考え方が凄くて。なっちゃんよりも親っぽいし、何より男前な性格をしている。だから俺は、気兼ねなく父さんと呼んでいる。
「何でまたサボってんだよ」
とりあえず1回。
コツンと頭を小突かれた。
「いたっ・・!」
「卒業できなくなったらどうすんだ」
「あ、それそれ。あのね、」
「まず夏生さんに謝ること。金払ってんのはあの人なんだからな」
「はい。すみません・・・でね!!」
「ん?」
どうしても。今日遊んだ相手の話をしたかった。
「今日一緒にいた友達さ、初めて話したんだけど。すげー良い奴で、めっちゃ楽しくて!」
「うん」
走り出した車の中。父さんの丁寧すぎるくらいの運転が始まる。
助手席に座った俺はちゃんとシートベルトをつけて、さきほど千田が買ってくれた小さい方のペットボトルをドリンクホルダーのところに突っ込んだ。
「で、一人暮らしでバイトしてるんだって」
「高校で一人暮らし?すごいな。地元遠くなの?」
「んー・・いや。何か、親と色々あって距離置いてるって言ってた。地元ドコとかは聞かなかったわ。でもずっと同じ高校・・・あ、留年生なんだけどさ」
「留年生?おいおい大丈夫かよ」
「大丈夫!友達として全然大丈夫な奴だから!つーかもう、格好よすぎてヤバい!」
興奮気味に、運転席の方に身を乗り出してそう言えば、「危ない」と頭を押し返された。
「まあ、良かったじゃん。仲良く出来そうな友達が増えたって事だろ?」
「そー!今日すげー嬉しかった!」
「でもサボるな」
「あ、ごめん・・だから、今度は土日に遊ぼって話して来た!」
運転しつつも、父さんはニコニコと話しを聞いてくれる。なっちゃんは父さんと違って表情筋が硬いだとかで無表情が多い。不器用なせいもうあるだろうけれど、そのせいで昔は色々あった。父さんとなっちゃんが一緒にいるときに俺がベラベラ喋っていると、父さんの表情でなっちゃんの表情が分かる、って感じがする。前に、「俺が笑ってたら夏生さんも笑ってるとき多いよ」と。俺でも見分けられない母親の表情の変化を読み取っている父さんが言ってくれたことがある。だからこうして父さんが笑ってくれると、この話をしたらなっちゃんも笑ってくれるのかと、何だか安心したりもする訳だ。
「土日な。土日なら、どっか行きたかったらみんな連れてってあげれるし」
「んー」
父さんは大体俺となっちゃんの家にいてくれる。
結婚している訳じゃないし、父さんも父さんで仕事があるからたまにいない日もあるけれど、大体は家族団らんをしてくれる。
そうして、どこか行きたい所があれば、車を回して連れて行ってくれるのだ。
「・・そんなご機嫌になるくらいいい奴だった?」
「え?」
「ずっとニコニコしてるからさ」
クスクスと笑いながら、チラリと父さんがこっちを向く。
そんなに。
そんなにニコニコしていただろうか。確かに、千田と喋れたのも遊べたのも嬉しかったけれど。
「・・んー。楽しかった!」
ニッと笑って返すと、「そりゃ良かったよ」と小さく聞こえた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 72