アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10話「来た」
-
昨日家に帰ってからさっそく繋がった携帯のアプリで、千田に連絡を取ろうとメッセージを打ち込む。
昼休み。
千田の捜索は諦め、ほぼ満員になっていた学食で何とか席を確保して昼飯を食べ始めた所だった。
[飯食ったー?沢野たちも皆して学食いるから来れそうだったら来てー。いつ遊ぶか決めよー。っつーか体調悪い?大丈夫?]
そこまで打って、手を止める。
(長いか・・というか質問ばっかでうざいか・・)
目の前にあるラーメンには一切手をつけず、先生達が集まって食べている席からバレないようにケータイを打ち続ける。
(違うな、もっとこう簡潔に・・)
[飯食ったー?沢野達もいるから学食来いよー。でも体調悪いなら帰れよー?]
(ん?何かえらそうか・・えーと・・)
[飯食ったー?]
(そもそもこの出だしがおかしい?)
[千田ー!沢野達もいるから来れそうだったら学食来いよー!]
(むしろこれだけの方がいいのか・・でも心配してるって伝えた方が、いや、でもやっぱしつこい・・)
「そーしん」
「あッ!!」
隣からするりと伸びて来た手が、そのまま送信ボタンを押してしまった。
消したり書いたりを繰り返していた文章は、結局一番シンプルなもので送られて。
俺は口をあんぐりと開けたまま、隣をぎくりと首を回して見た。
「お、ま、え、なー!!」
「いやいやいや。お前のためを思ってやったし。めっちゃ救馬にラーメンの具食われてるし。麺伸びまくってるし」
「え!?」
そう言って沢野は自分のラーメンをすする。
慌てて俺は自分の器を覗き込んだが確かに。具が減っている。メンマがなくなっていてチャーシューは半分になっていた。
「救馬!!」
「うそうそうそ!俺じゃねえし!!沢野だから!」
「はあ!?こんなことすんのお前くらいだろ!よこせよ鯵のフライ!!」
「あっ!!ちょそれ、だめー!!最後のやつー!!」
救馬の食べていたA定食のおかずを狙って箸を伸ばした。
騒ぎだした俺たちを見て、もっとやれと宇田っちが言う。大声を出したせいで一瞬周りの目がこちらに来て少しビビったが、またザワザワといつもどおりの食堂に戻った。
(ん?)
膝でブーブーと携帯が震える。
[どこ?]
「!・・ぁ、」
視線を下ろして携帯の画面を見れば、短くそう表示されていた。
もう食堂に来ているのかと入口の方を見れば、キョロキョロとこちらを探している千田の姿があった。
「千田来た・・!」
「え?」
小さくそう言って、ブンブンと手を振る。
こういうとき、デカくて良かったと毎度思うわけで。
一瞬で俺を見つけた千田が、こっちに手を振り替えしながら笑った。
(あ、わ・・笑った・・)
ガタッ
ガチャッ
「うわっ、」
「バカ!!ミヤ、お前こぼしてる!!」
勢い良く立上がったせいでテーブルに膝がひっかかった。
揺れたテーブルの上にあった俺のラーメンの器も派手に揺れ、全部零れはしなかったが中身が少し飛び出てしまったらしい。
向かいに座っていた求馬の変な叫びと、本原の焦った声が聞こえた。
隣の沢野はちゃっかり自分の器だけ持ち上げている。
「こぼしたー!!」
俺が叫ぶと、本原はさっさと台拭きを隣のテーブルの女子の集団からかしてもらう。
「アホかお前!デカいんだから気をつけろ!」
「ごめんごめん、あー、それ貸して」
「ん」
差し出された台拭きでさっさと散らばった汁を拭き取る。
「何してんの?」
「ぁ、」
隣からの声。そっちを向けば、千田が笑いながら立っていた。
(お、おお・・キラキラ笑顔・・)
「こぼした」
「あはは。大丈夫?」
6人テーブルに集まった俺たち。
自分の隣の席を空けておいて良かった。
千田がそこの席を引いて座る。俺はさっさと台拭きを動かした。
「千田ちゃん何か食ったの?」
椅子に寄りかかりつつ、俺の後ろから千田を見て沢野が聞いた。
どうしたものか。汁と一緒に飛び出したわかめがテーブルに張り付いて取れない。
「わかめ取れねえ・・!」
「ミヤ馬鹿じゃねーの!?超ウケる!」
「こっち真剣なんだよ!」
向かいの救馬がゲラゲラと笑って来てうざい。
千田がいるのだからあまり馬鹿にしないでもらいたかった。
後ろでは沢野と千田が俺をはさんで会話している。何となく「邪魔か・・」と思いつつも、必死にわかめを擦って取った。
そのまま台拭きを俺たちのテーブルの上にポンと置いて。ドサ、と椅子に座る。
「ちょっとちょっと、大ちゃん邪魔」
「千田何か買いに行くー?」
「無視すんなー!」
沢野と千田の会話を邪魔して、俺は千田の方を向いて話しかけた。
サラサラの千田の髪が揺れる。食堂の窓が開いているからだ。
ふわりと、男なのにいい匂いがした。
「んー、何か買って来るか。購買でいいなぁ」
のんびりとした千田の声。
昨日と同じ感じ。
「俺も飲み物欲しいからついてく」
「んー。行こ」
ニッコリ。
何だかこれが癒やしになりそうだ。
千田のイケメンスマイルを見つつ、そう思いつつ。テーブルの上に置いてあった財布を掴んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 72