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16話「沈黙した」
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「自殺・・?」
また耳の後ろで血の流れる音がする。ドクドク、ドクドクと。
周りの空気が肌に触れるのが分かるように、冷たい空気が廊下に満ちていると言うのを何故か今明確に理解した。
目の前にいる沢野はゆっくり頷きながら、「静かに聞けよ」とまた念を押す。
「理由までは聞けなかったんだけど、とにかく自殺して。そのショックで、1年間学校に来れなくて、そのまま留年したんだって」
「ぇ・・あ、」
「で、そのいざこざで、今ご両親と距離置いて、一人暮らししてるって言ってた」
自殺。
自殺。
兄弟の、自殺。
上にも下にも兄弟がいない俺からすればその悲しみは理解しきれないだろう。
でも例えば、兄弟と同じくらいに濃い付き合いをしてきた幼馴染みが自殺したらと考えたその衝撃の何倍もの悲しい出来事だ。
「とにかくアイツ、家庭環境すごい複雑だと思う」
「・・・」
「それに、ずっと何か悩んでる」
「え・・」
眉根に皺を寄せ、不機嫌なのではなく。
沢野はちょっと心配そうな顔をしていた。
実際、きっとその事実を知ったときからずっと、千田を心配しているんだろう。
「悩んでる?」
「それまでは聞けなかった・・っつうか、ほんとそれだけは話してくれない」
「・・・」
「何回きいても、何も無いって言って来るし」
「そっか」
沢野は察しがいいから、たぶん千田は本当に何か悩んでいるんだろう。
そこまで理解してから、不安になった。
(俺・・・)
俺は、千田の中で一体どういう位置の人間だろう。
ちょっと話す友達?それとも大分仲の良い友達?
ずっと言わなかったことを話した沢野と比べたらどのくらい?
「・・・・」
重要ではないだろう。
恋愛対象な訳も無いだろう。
何か重要なことを相談できる相手でも、ましてや沢野に言わないことを言える様な相手でも。
何でも、ないだろう。
「・・俺、」
「?」
「もっと・・千田に、近くなれたらいいなぁ・・悩み事も相談できて、頼ってもらえる存在に、なれたらいいなぁ」
「・・・」
独り言。
恥ずかしいくらいのぼやきを、ただ沢野は聞いてくれて。小さく、「そうだなぁ」と返してくれた。
何の音も響いて来なくなった廊下のベンチで2人。
沈黙しつつも、同じ様なことを今、考えているんだろう。
俺は千田について。
多分沢野は本原について。
同じように、好きな人について、思考を巡らせているのだろう。
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