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20話「興奮した」
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伝えたら
「・・・」
もし今思っていることを伝えたら、どうなるんだろう。
夕飯をごちそうになり、風呂まで先に貰って。
1人。
貸してもらった毛布を膝にかけながら、ボーッとテレビの音を聞く。それはどこか意識の奥の方で聞いている様な感覚で、ぼんやりとした背景の音のようだった。
それくらいには頭に入って来ない。
最近の頭の中は、大半は千田のこと。受験を控えた高校生が何を考えているのだか。
普通ならば、色恋沙汰はさておいてまずは受験に失敗しないように塾に通って精一杯勉強しろと言うこの時に。
俺はまったく、何もしていなかった。
(何もしてないどころか、何がしたいのかわかんねえし・・それよか今は千田の事以外考えられない)
千田の事以外で考えるとしたら、あとは本原と沢野のことくらい。
「・・んんん」
体育座りしたその膝に顔を埋める。
本原と沢野はうまくいくんだろうか。今日だって、2人でどこかへ遊びに行ったし。
あの2人が上手くいったら、そりゃあ、嬉しい・・なあ。
だって、沢野はあんなに本原が好きなんだから。本原もあのくらい沢野を好きになれたなら、幸せなことだろう。
だったら、俺と千田は?
いや、まず。あっちの2人くらいに俺と千田の関係は進展なんてしていないのだから、考えるべきじゃないのかもしれない。
まずは、そういう対象として見てもらえる位置まで行くべきか。
ブーッ ブーッ
毛布の上。足元あたりに置いておいた携帯が派手に鳴いた。
「・・・はい?」
メールかと思えばそのままなり続けて、慌てて携帯を機動すれば、画面には沢野という人物からの着信と表示された。
《あ、大ちゃん?》
「おー。どしたの」
妙に掠れた様な声が聞こえた。
《大ちゃん・・・大ちゃーん!!フラれたよ俺ー!!》
「えッ!?」
今まさに、沢野と本原が付き合ったらあんな感じかこんな感じかと考えていたところだったのに。
いきなり、そんな悲痛な叫び声のご報告。
「うっそ!?嘘だろ!?嘘だろ!!!??」
俺の中ではもう完全に付き合ってたのに、お前ら。
《フラれたんだってばー!!!だから今飲んでる》
「はあ!?飲むな未成年!!大体誰と!?」
《お前だって飲んでるだろどうせ!!知り合いと!!ゲイの!!知り合いと!!》
「え!?あ、そうなの・・じゃねえよ!!そのまま失恋慰めてやるからとか言われて持ち帰られんなよお前!!」
《え?あ・・え?》
「そういうのあるんだからな!!言っとくけど経験者から聞いた話しだからな!!」
ちなみに父さんから聞いた話しだ。
ギリギリのところで相手の態度がおかしいと気がついてお持ち帰りは回避したらしいが。
俺は強い力で手汗をかきながら携帯を握って。千田に聞こえないように注意しながら沢野と話す。
《あ、あ、うっそ。やっべ。さっき何か、このまま宅飲みしようかーとか言われたんだけど》
「やめとけ。行くなよ。やめとけマジ。良い人かもしれないけどひとまずやめとけ」
《い、いや、わかんね、今日知り合ったばっかの人だから》
「絶対についていくなアホ!!!」
沢野。
お前、明るくさっきから振る舞ってるけど本当はかなりショックだったんだろ。
少し頭を抱えそうになりながら、溜息をつく。
シャワーの音がまだしているから、千田がこっちの話を聞いている心配はなさそうだ。
「っていうか・・なんだよー・・フラれたんかよー」
《それ、あの、それな。俺が悲しんだよ?一番悲しいの俺だよ?》
ああ、泣き始めた。
《もうさ、すげえ偶然で。俺が告った同じ日に、あの、水泳部の、ほら、可愛い子。救馬が好きな、ほら、さ、紗季ちゃんだっけ?1年だか、2年の後輩》
「え?ああ、うん」
《あの子にも告られたんだって》
「は!?」
《で。でな?何か・・なに?え?、あの・・迷ってたって、いうの?いや、・・気を遣ってただけなのかな、俺に。何か・・うん》
「いや、うんじゃねえだろ」
《だから・・その、あっちの子と付き合うって》
「な・・なんだよそれぇ・・!」
あんなに。
あんなに沢野のこと意識してたのに。あんなに、俺が千田に反応するみたいな素振りを見せていたのに。
《いやいいんだよ?普通だかんな?女取る方が》
「・・・」
普通。
女を、取る方が。
その言葉が、重たく重たく伸し掛かって来た。
確かにそうだ。たまたま両親が同性愛者で。たまたま友達にゲイがいたってだけで。普通なら、すごく、すごくありえない話しなのかもしれない。
「・・・」
でも。
俺には当たり前なんだ。人が人を好きになる。
同性だろうが異性だろうが、人が人を好きになる。
普通のことなんだ。それが。
だから、
「普通とかじゃねえよ」
いや、俺は・・・だめだ。
何が言いたいんだ。
グルグルグルグル。言いたいこと、思っていることが頭の中を回りだす。
違う。
落ちつけ。
落ち着いて。
「あそこまで、あからさまに照れたりとか、そういう態度を見せてくれたんだから。本当に迷ってたんだろうな」
《・・うん》
「普通の方を取ったとかじゃないと思うんだよ。あー、こういう言い方も違うな。なんつーのかな・・」
《・・・》
「うん・・ごめん、なんて言うんだろう」
《・・いや、なんかお前がいってくれようとしてること、何となく分かるわ》
嬉しそうな声で。
肩の力が抜けた。
「厳しいなぁ」
へらりと、受話器越しに笑う。
《ホントだよなー・・もうさ、お前、頑張ってよ》
縋るみたいな声。
「え」
《俺の分まで、がんばってよマジで》
あっちも同じように、笑っている気がした。
ちょっと疲れた様な、傷ついた笑顔で。
「・・諦めんの?」
とっさに口をついて出た。
《え?》
「諦めんの?」
《・・いや、だって・・なあ》
「そっか」
《・・・うーあー!!!》
「っ・・え?」
《お前がそういうこと言うと諦めたくなくなるんだけど!!》
「え・・いや、いいんじゃね」
《だってホントに好きだったんだよ!!超格好いいし!!照れるとめっちゃ可愛いし!!》
「沢野、うるさい。ちょっと音量下げて」
《知ってる!?アイツめっちゃ腰細いんだぜ!?腕だって白いしさあ!!》
何がどうしてスイッチを入れてしまったのか。
沢野が電話の向こうで叫び始めた。
《知ってる!?なあ知ってる!?》
「知らねえよそこまで見てねえよっていうかお前変態!!」
《うっせえな!!好きだとそういうとこまで見ちゃうの!!ってーか見してもらいました!!》
「はあ!?」
《ちょっといい雰囲気になったときに俺の部屋でちょっと触りました!!ああ白状するよ触ったよ!!男のくせに細いし白いしあったかいしなんか柔らかいし最高でしたよ!!》
「お、お、おまっ、え!?」
《シてねーよ!!シてねーよ未遂だよ!!》
「未遂もすんじゃねえ!!」
もううるさい。こいつただうるさい。
フラれたショックだか何だか分からないが、お連れさんのことも気にせずにすごい勢いで俺と電話している。
こっちもこっちで、そろそろ千田が風呂から出て来るから切りたいんだが。
《っつうかお前だって!!今!!千田ちゃんといんだろ!?》
「え、な、なん、でっ・・?」
何で知ってるんだお前・・!!
《食堂で話してたの聞こえてねえとでも思ったのかボケ!!》
「聞くなよ変態!!」
《うっさいもうお前押し倒せ!!》
「はあ!?もうほんとうるさい電話切るから」
《切ったら後悔させる》
「なに!?何なのお前!」
《切ったらお前掘るからな》
「冗談でもそういうこと言うな寒気するわ!!」
大体10センチも身長差のある男に掘られたくない。
大体沢野に掘られたくない。
《今千田ちゃんは》
「風呂」
《風呂な!!あがって来たらやべえから!!》
「な、何が・・」
《やたらとシャンプーのいい匂いするし顔なんかぽけ?っとしちゃってるし眠そうだし暖かそうだし髪濡れてるしとにかくエロい》
「てめっ、!」
《違う違うよお兄さん。俺が言ってんのはうちに泊めたときの本原の話。千田ちゃん良い男だけど俺の対象じゃないですよ》
「あ、ああ・・え?」
《でも俺からしたら本原がそういう風に見えちゃったんだから。お前だったら千田ちゃんがそういう風に見えるってことだろ》
「ああ、そういう・・え・・え?」
え、今・・も、もうちょっとでそれ見れるってこと?
え?
エロい、千田が、見れるってこと?風呂上がりの?良い匂いさせながら?髪の濡れた千田を拝めるってこと・・?
「へ、ぇっ!?」
《勃たせんなよ?大ちゃぁん》
妙にニヤついた声が鼓膜を震わせてくる。
だが今の俺はそれどころではない。
心臓はバクバクしてきたし息が荒くなって来たし。
正直、頭の中は風呂上がりの千田のことでいっぱいだ。
「ど、どどど、どうしよう沢野」
《襲うなよ?。千田ちゃん傷ついちゃうぜ》
「生殺し?拷問!?」
《がんばれ・・俺は我慢できなかったから襲ってフラれた・・》
そうだコイツ、フラれたんだった。
「き、気をつける・・!!!」
《おう。気をつけろ》
「あ、やばい、上がったみたい」
《千田ちゃん長風呂だよな》
「それ思った・・じゃねえよどうしよう!!」
《落ちつけ?深呼吸?》
「沢野ぉ!!」
《じゃあ俺自分慰める会に戻るから。あ、さっきの人には断るから。じゃあね?》
「あ、おい!!沢野!!!」
ブツンと通話が切れた。
「ちょ、」
「沢野と電話?」
「ぇ・・・?」
切れた電話を、もう一度かけ直そうとした瞬間。
興奮と緊張で足音が聞こえなかったらしい。千田の声がすぐそこからして。急いで見上げれば確かに、ああ。
(えっろ・・・!!!)
首にタオルをかけて、上下スウェットで。
ぼんやりとした顔の千田が、頭を傾けながらこちらを見下ろしていた。
(ぉ・・おおお・・!!)
ちょっと、これは。
ヤバいかもしれない。
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