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21話「触れなかった」
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本当にする。
ふわふわと香って来るシャンプーの匂い。俺がさっき遣ったそれと同じ筈なのに、何故か数倍甘ったるく感じた。
そのまま、それを纏ったまま。
ひょいひょいと俺の周りを動き回る千田。
(何を、どうしたいんだ・・)
食堂にいた時、沢野が本原に対して「襲ってほしいってことか」とかなんとか言っていたのが今なんとなく分かった。
だって
これ、誘っているとしか思えなくて。苦しい。
ごきゅ、と喉の奥で唾を飲む。静かな室内にその音が響いたように聞こえた。
「宮崎ー」
「え!?」
「何か飲む?水かー、お茶かー・・あと何かあったかな。ああ、お前がさっき買って来てくれたジュースもある」
人の家にお邪魔するのだから、と一応ばかりに俺が持ってきたジュースを冷蔵庫から取り出してブラブラとさせながら俺に見せて来る千田。
まだ湿っている髪が、頬に張り付いていて。
それが何とも、大人っぽくて、色っぽい。
「み、水でいいわ」
すごく笑みを引きつらせながらそう言った。
不自然極まりない態度。また千田に変な気遣いさせても悪いのに、俺は俺で極限状態に近くで今の自分をどうにもできない。
(マジでいい匂いするしマジで色っぽいしエロいし・・ああああ)
ブンブンと。
やらしい妄想をしそうになる度に頭を振る。
「虫でもいんの?」
「へっ!?い、いないけど!?」
「じゃあどしたんだよ。頭痛い?」
「いや違う!!大丈夫!!」
ほらこうやって気を遣わせてしまうから・・!!!
なんとか自主抑制しようと試みる。試みているのに、そんな俺をつゆ知らず。千田は堂々と俺の隣に座って、なんとまあ俺が膝にかけている毛布の中に同じように入って来た。
「!?」
「あったかー。前から思ってたけど宮崎って体温高いよなー」
「え?あ、ぁあ、よく言われる・・平熱も高いし」
「何度?」
「36度5分とか、6分とか」
「へえ。高いな。俺逆に35度台だよ」
「千田って手とか冷たいもんな」
「んー」
隣でニコーッと笑われて。思わず手を伸ばしかけた。
何でそこで手が出るんだ。俺。
肌がざわつくというかなんというか。あのいい匂いが隣からふわふわ流れて来るし、何より足がさっきから毛布の中でくっつきそうでドキドキしている。
いつの間にか、触れ合うのでさえこんなに意識している俺がいた。
最も、こんなに緊張して興奮して意識しているのは、俺の一方通行なんだろうけれど。
「あ、水テーブルの上な」
「ん、ありがと」
持ってきてくれた水の入ったコップは確かにテーブルの上にあった。
「沢野さっきどうしたの?」
「え・・いや、何か。話したかったんだって」
「ふぅん・・?」
言えない。
だって千田は知らないだろう。
アイツがゲイで本原に告白したことは・・。
俺は会話を切るみたいにテーブルの方へ手を伸ばしてコップを持ち上げる。
一瞬ぐにゃりと。コップを通して見たテレビの画面が歪む。
唇に当たったガラスは冷たくて。こんなではなかったが、いつぞやの千田の手の冷たさを思い出した。
(ほんとに体温低いんだろうなあ・・)
だんだんと、いやらしいだのエロいだのではなくなってきて。
どちらかと言えば、「ちょん」くらいでいいから。
その俺よりも低い体温に、少しだけ触れたいと思った。
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