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23話「盗み聞いた」
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「いない!?」
「食堂いこーって言おうとしたらもう席にいなかった」
「ええ!?」
告白って、放課後だと思っていたのに。
どうやら昼休みだったらしく。
目撃者から聞いた沢野の話しによると、9組の吉井は4時間目が終わるなりすぐに現れて、半ば強引に千田を連れてどこかへ消えたらしい。
「なんたる!!」
「大ちゃん落ちつけよ・・」
呆れた様な沢野の反応に対して、俺は多いに焦っていた。守ろうと決意したのに、完全に出遅れたからだ。
食堂にはいつものメンバーが大半集まっていて。加えてその場のノリで一緒に食べることになった奴も数人いた。
俺たち3年生は全クラス合わせて20組もある。マンモス校と呼ばれるだけ合って学年ごとの人数は他の比ではないのだ。
だから、今日、今この場にいても関わったことの無い顔の奴もいる。
「お・・俺、探して来る・・」
「いや、やめとけって」
「行って来る」
「真面目に!?ちょ、ちょっと大ちゃーん!!」
食券を買おうと食堂の入口の辺に並んでいた俺は列から離れ、そのまま思い当たる場所を片っ端から探そうと走り出した。
校舎の裏やら空き教室から、思い当たるところは色々ある。
後輩、同級生。
色んな奴らが色んな所で固まって弁当を食ったり喋ったりしている昼休みの校内。
ガヤガヤとやかましい。
こういう人の多い校舎では無いだろう。
人気の無い、静かな所だろう。きっと。だって、女の子が告白するのだから。
(千田・・・!!)
時間が過ぎて行く。
走るに走って結局、一度だけ連れて来てくれた屋上にたどり着いた。
(・・まさか、な)
千田が案内しない限りここには来ないとも思った。
なのだが、もうここくらいしか思い当たらない。
冷たい金属の取っ手に指を絡める。つるつるとした感触に、汗ばんだ自分の手。
ぎゅ、と握ってから、静かに、静かに。
その扉を引いた。
「好きです!」
「っ!?」
透き通った、柔らかい、声。
女の子らしい高音の、可愛い声。
下げていた視線がギョロリと上を向いた。
声のする方、ドアの向こうへ。
「ぁ、」
屋上の真ん中辺りに、見たことのある女の子と、そして。
彼女より幾分か背の高い、スラッとした体型の男がいた。
風に遊ばれた黒髪が、サラサラと彼の頬をくすぐる。
男の真っ直ぐな視線は彼女の真っ直ぐな想いを聞いても、焦った様な、うろたえた様な色は映さない。
付け加えるなら、
人から好意を寄せられたことに対して、嬉しいとか、ちょっとドキドキしているとか。そういう感じの感情も、何もかも、映さない。
揺らがない。
「・・・・」
それは、不気味にも見えた。
「ごめん」
冷淡な声は弱く吹いて来た風に乗って、こちらにも届いた。
「え・・」
「ごめん」
「・・ぁの、す、好きでなくても良いから!付き合ってください!」
必死な彼女が、どうしてだろうか。
自分と重なった。
「彼女、いないって聞いて・・だから、付き合ってください!!」
もしかして、志織が言ってた千田のことを好きな女子は、吉井だったんだろうか。
「・・・」
「好きな、人・・いても、がんばるから!!付き合ってください・・あの、ほんとに・・私、1年の時から、千田さんのこと好きで!!ずっと、好きで!!憧れてて!!」
「・・・」
ああ、またあの目だ。
あの顔だ。
表情だ。
声だ。
「ごめん」
人を突き放す。
低くて、疲れた様な声だ。
「っ・・彼女、い、いるんですか?」
「いないよ」
「あの、・・どう、しても?」
「ごめん」
「・・何で、」
諦められないのか。
とうとう泣き出した彼女は、強張った表情で千田を見つめ続けていた。
「付き合うとか、そういうの・・今は、いらないんだ」
「あ、あの・・友達、みたいな、そういうので、いいんで、あの「ごめん」・・」
「俺じゃなくて、もっと良い人いると思う。ごめんね」
ビュウビュウと、風が吹いていた。
「俺は、誰かと付き合う気はないから」
「・・・」
誰かと付き合う気はない。
誰かと。
誰か。
それは、俺とも。
誰とも。
そういう、意味だろう。
「・・・」
「・・き、キス、してください」
「っ!?」
まさかの一言に、目を丸くした。
「は・・?」
「キスしてくれたら、あ・・諦め、ますから・・!」
ごきゅ、と。
喉の奥で嫌な音。
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