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25話「言った」
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負けるな、と誰かが言った。
そう言う問題ではないのだ。
勝て、と誰かが言った。
そういう話しではないのだ。
なのに誰も。
誰も彼も、俺たちを理解しようとはしなかった。
「・・・」
思い出すのは今日みたいな、晴れ渡った綺麗な青空。
どんな遠い所でも見渡せそうな高い建物の屋上で、俺はずっとそれを見ていた。
温かい筈なのに冷たく感じた空気や、うるさい街中なのに何重ものフィルター越しに聞いている様な音を感じて。
たった1人でそこに立っていた。
合わない焦点はずっと宙をさまよう。
でもその向こうに、残酷な程に綺麗な青があった。
呼び出された女の子に連れられて、この間宮崎と入って以来の屋上に踏み入った。
必死さのわかる告白を聞きながら、俺は彼女の肩越しの空をずっと見ていた。
綺麗だ。
青くて、澄んでいて。
そうして冷たい声で、何度か彼女に謝罪を述べた。
謝罪と言うよりは、拒絶だろうか。
結果、泣かせてしまった。
でも好きじゃない。
なのにキスをしろと言われた。
必死に、必死に。泣きながら、何度も。懇願されて、泣き付かれて。
「・・・っん」
申し訳なくなった。
だから、キスをした。
彼女に泣きながら、今度は礼を言われて。
立ち去って、ドアの閉まる音がしてから。
右手の袖で、何度も口を拭いた。
痛くなるくらいに、何度も何度も、口を拭いた。
皮が剥けても、赤くなっても良い。
色んなものを堪えながら、唇から、彼女の感触を消した。
そうして、ただ静かにそのまま空を見ていた。
「ごめん」
青空。青空。
俺は、
「ごめん、」
大嫌いだ。
笑っているように見えるこの空が、大嫌いだ。
兄の死を笑う様なこの空が、大嫌いだ。
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