アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
26話「気がついた」
-
今、やっと気がついた。
「ハアッハアッハアッ」
走り抜けた人と人の間。たどり着いたのは自分の教室で、中にはほとんど誰もいなかった。
みんな、昼休みで他へ食べに行っているようで。
「ハアッ・・・はあ・・・はあ」
自分の席につきながら、頭を抱えた。
そうだ。
そうじゃないか。
誰かと付き合う気はない
それは、誰とも、ということで。
吉井はもちろんのこと、俺を含めた、他全員のことであって。
だからつまりは、
(無理なんだ・・アイツと付き合うの・・無理、なんだ)
あの顔は本当にそう思っている顔だ。誰とも付き合わない。
誰とも。例え、誰が来ても。誰に告白されても。
その残酷な意味を含んだ言葉をやっと理解した時点で、色んなものに負けた気がした。
伝える以前に、敗北が見えているなんて。
グッと、胸が苦しくなった。
ドッドッドッと心臓がやかましく焦りだしたのは、走って来たからか、それとも今の心境のせいなのか。
いや、俺が甘かったんだ。
父さんとなっちゃんを見て来たから、同性が付き合うなんて当たり前で、愛し合うなんて当たり前で。
ましてや、同性同士が付き合ったり一緒にいたり。そんなこと簡単だと思い込んでいた。
そんなわけがない。
男女が付き合うのだって、色んな確立や色んな想いや、色んな駆け引きが合ってやっと結ばれるのに。
努力もしていない。これといってアタックもしていない。ましてや、千田に似合う様な背の低いおしとやかで可愛らしい女子なんかじゃない。
俺は男だ。
しかもアイツよりデカい。
どんなに気があっても、どんなに仲が良くても。一緒にいる時間が長くても、何でも。相手にその気が少しも無い状態で、俺が何もしなかったら、それはそれで終わりになるんだ。
何を待ってた?
何を期待してた?
告白している最中、ずっとギトギトとした感情がいた。胸の奥にとぐろを巻いて居座っていた。なのに今はどうだ。
ざまあみろ。
フラれた瞬間、性悪くもそう感じてあざ笑ってくせに。スッとしたいい気分になったくせに、今はどうだ。
(誰より俺が・・一番、ありえない妄想、を、していた・・)
女子の告白だって断る千田と、俺が付き合える訳が無いんだ。
「・・・っん、」
そうして思い出したのは、やはり彼女と千田のキス。
柔らかそうな唇同士が重なって、すごく綺麗に見えたあの瞬間。
悲しい。
悲しい。
羨ましい。
ひどく、重たいものが心に乗っかって。先ほど、彼女がフラれた時の高揚感を取り去って行く。
手が震えた。
心が泣いた。
「・・千田・・」
好き。好き。好き。好きだ、好き。
「・・・」
付き合えるわけがない。でも、俺と同じようにアイツに片思いしていた女の子と、アイツの、キスを見てしまった。
「っ・・」
あんなものを、見てしまったんだ。
「くっそ・・・」
「何してんだよ、デカぶつ!」
「いった!!」
考えて考えてパンパンになっていた頭を叩かれた。
「いてー・・・何すんの宇田っち!!」
頭を抑えながら横を向けば、やはり。声の通り、宇田っちがそこに立っていた。
「こっちの台詞だって。飯食った?もう皆食堂いるよ?ってか千田も来たし」
呆れ返った様子でそう言って来た。
そしてやはり、宇田っち独特のちょっと冷たい視線が俺に刺さる。
「あー、マジか・・」
だがどうにも、今千田の顔を見たくない。
それに、会っても多分、うまく話せない。
なぜなら絶望しているんだ、俺は。
自分のバカさやら。
この恋の破滅具合に。
「・・・」
「?」
きょろきょろと、宇田っちが教室内を見回す。
離れた席に2人ぐらいの女子がいるくらいで、あとは誰もいない。
「席借りまーす」
「ん・・?」
そう言うと、俺の隣の席の椅子を引いてそこに座った。
「ど、どしたの」
ギロリ。
きつい視線がこっちを見上げて来た。
さっきまで俺を見下ろしていたそれだ。
「お前、まさか本当に吉井の告白邪魔した?」
「し、してないしてない!」
ブンブンと手を振って訴える。
疑い深そうな目をしながら、宇田っちはまたハア、と深いため息をついて。
それから体勢を少し変えて、机に肘をついてその上に顎を乗せた。
宇田っちは背は低いけど顔は大人っぽい。
何だか厳しい様な呆れた様な表情がよく似合う。
「違うなら笑い飛ばせよ」
「え?」
「お前、千田のこと、恋愛対象として好き?」
「えッ!!!?」
せっかく気をつかって宇田っちが小さい声で言ってくれたのに、俺は反して大声で返していた。
「うっさ」
そしてまた、不機嫌そうにそう言われる。
「あ、あの、え・・・なん、何で?沢野に聞いたの?」
「沢野は知ってんの?」
「え?いや、あ・・えっと」
まさか、察しただけ?
誰にも聞かずに、俺が千田を好きって分かったのか・・?
「まあ、そこは深く聞かんわ。あのな、誰にも聞いてない。お前が分かりやすすぎるだけ」
「えっ・・!?」
ヤバい。沢野にもバレたし、今度は宇田っちにバレた。
「俺そんな分かりやすい?」
「すげーわかりやすい」
ジトーっとした目をされた。
そういえば、宇田っちはもう飯食ったのかな。
「あ・・うわああ・・」
そう言われると、急に恥ずかしくなって来た。
そんなにバレるくらいに、俺はあからさまな態度を取っているのだろうか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 72