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29話「零した」
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「一番、救馬、歌いまーす!」
俺は何度もカラオケだけは嫌だと言ったのに。
結局連れて来られていた。
「救馬って歌うまいんだな!」
当然のように俺の隣に座った千田は、興奮気味にそう言った。
どうしよう。歌うまい奴が好きとかだったらどうしよう。
ハッキリ言って俺はカラオケを拒絶するくらいには音痴だ。
だから今は無理矢理に歌わされないことを願っていて。そしてもし歌うことになったらどうしよう、とすごく手汗をかいている。
ついでに言うと室温が何か高めに設定されているのか少し暑いしもっとついでに言うと隣に千田がいる時点で色々と暑い。
2番目の本原が歌い始める。救馬と違って低音な良い声。
「本原もうまいなー・・あ、宮崎何歌う?俺宮崎の次で、」
「歌わない・・」
「え?」
「歌わない・・!!」
曲入れの機械を手に持ったまま、俺の方を向いて千田が固まった。
「ど、どうした」
「歌わせないでくれ」
「え?」
「千田っち無理だよー!ミヤくっそ音痴だから基本歌わねーの!」
「え?」
「バラすなあああ!!」
アホ救馬。バカ救馬。
立上がってぶん殴りそうになったのを、後ろから沢野に抱きつかれて止められた。
目の前にいる救馬は「デカいから迫力あって怖い!!」とか騒ぎながら俺から距離を取る。
この野郎。
ふざけんじゃねえ。
「音痴だよ悪いかよ!!」
「悪いとか言ってねえから!」
「笑ってんじゃねえアホ救馬!!インポ!!」
「ああ!?」
恥ずかしいっていうのにバラしやがって。
隣の千田が固まったまま動かなくなってしまったじゃないか。
後ろから沢野にドウドウと言われ、とりあえず落ち着いて席に座る。
そのままローファを脱いで、ソファの上で体育座りをした。
「音痴、なの?」
「うっ・・」
悪びれもせず、ただ興味本位だろう。千田が隣からそう聞いて来た。垂れてもつってもいない目をまん丸くして。首を少し傾けながら言うものだから、ああ、もう、いちいちそういう仕草さえ可愛い。
「ものすごく、音痴っす」
渋々、泣きそうになりながらそう言った。
「良かったー」
「え?」
「俺もなんだー」
「え!?」
千田は本当にホッとした様な声を出す。
今度は俺が目を丸くした。
「なんだよ言えよ最初にー。俺どうやって歌わないようにするか悩んでたんだけど」
「え、マジ?」
「マジだよー。あはは、一緒か良かった」
「・・・」
意外だ。
何でも完璧な印象があるのに。
「あ、宮崎」
「ん?」
「飲み物取って来ない?」
「え?ああ」
見ると、俺のコップも千田のコップも空になっていた。
「行くかー。飲み物とってくるけど、他いるやついるー?」
一応に周りを見回してそう聞いておく。
ヒラヒラと手をあげたのは沢野とデュエット中の救馬。
「はいはい」
救馬のコップを左手に取って、千田が開けてくれたドアを通る。
2人並んで階段を降りて、廊下を歩いて。
ドリンクバーの前まで来て、それぞれのコップに新しい飲み物を注いで行く。
「ぁ、」
「え?」
ポトっと床にストローが落ちた。
それは千田が遣っていたもので、赤い線の入ったやつ。
俺はまず救馬のストローを引き抜いて、コップにウーロン茶を注いでいた。
「大丈夫?」
「これもう使えないよな」
「使えねえな」
「新しいのもらお」
そこにあったくず入れにひょいとストローを放り込み、新しいのを棚から選ぶ千田。
自分のコップに並々とオレンジジュースを注ぎつつ、取ったストローの袋をあけて、その袋を捨てて、それから、
(ぇ・・)
ぱくっと、そのストローを咥えた。
「っ・・・」
柔らかそうな、形の良いそれ。
男にしてはちょっと赤めというか、いい感じの色の上下の唇に。
今度は青色の線の入ったストローがはさまれた。
(え・・・えろい・・!!)
もにもにっとそのストローを、器用に唇を遣って上下に動かしてみせる。
すました様な表情が重ねて色っぽく見えて。ちょっとくらくらしそうだった。
ごくっと、喉がなる。
考えてみたら、さっきの吉井って女子は、あの唇とキスをしたのか。
あの唇に、触れたのか。
「・・・」
「・・って、おいおいおい!宮崎!溢れてるぞ!!」
「へっ?」
名前を呼ばれてドキーン!!とした瞬間、やっと目の前の事態に気がついた。
救馬のコップに入れていたウーロン茶がバチャバチャと零れている。
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