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31話「帰って来た」
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「おかえり」
ドアを開けてくれたのは父さん。家に来るといつもつけている赤いエプロンをして玄関のドアを開いてくれた。
俺が何年か前の誕生日にプレゼントした父さん専用のスリッパを履いて、ごく自然に。
「ただいま。なっちゃんはー?」
「いるよ。今日は早かったんだ」
「おお」
「今日はもともと早く仕事終わったんだって」
「あ、そうなの?良かった」
靴を脱いで綺麗に並べてから、父さんの後ろを歩いて一緒にリビングに入る。
部屋の中央ら辺に置かれた大きいソファに、なっちゃんが座って何かの資料を見ていた。
俺となっちゃんだけが住んでいたときは家族の時間なんてほとんどなくて。だから家具というものもほとんどなかったのだが、父さんが来てにぎやかになると、自然と一緒にいる時間を求めて色んなものを買った。
あのソファは、前の小さいものから買い直した。ほとんど料理をしないなっちゃんはキッチン周りの電化製品なんてまったく置こうとしていなかったけれど、父さんが勝手に買って来ていつのまにかキッチンのも便利なものが増えている。
この間は、油を使わずに揚げ物が出来るというやつと、アイスを作る機械を買って来てご機嫌にそこに置いていた。
「夏生さん。ご飯にしますからそこ片してください」
「・・・」
「大輝。お好み焼きにするから、匂いつかないように制服着替えてきな」
「はーい」
ホットプレートも父さんが買って来たやつだ。たこ焼きをやる鉄板がセットになっていたやつ。
言われるがままなっちゃんがテーブルの上の仕事の資料だろう大量の紙を片付け始め、俺も言われた通りにスウェットに着替えようと部屋に戻る。
俺の部屋も、父さんが買って来てくれたパソコンとか音楽デッキとかが置いてある。父さんはけっこう貢ぎ癖。かと思いきや、貢ぎ癖があるのはなっちゃんの方で、父さんはもらってばかりが嫌だからこうして色々買って来てくれたりしているらしい。ただたんに、俺の部屋を格好よくしたいのもあるんだとか言っていたが。
(いい親だ・・)
そりゃあ、中学生の時は許せなくて反抗したり、否定したり、言うこと聞かなかったりしたけれど。今はそう思う。
だから、中学3年生の卒業式の日。両親2人とも来てくれて、周りに俺の親がそういう夫婦だとバレたこともあった。バカにされたり、罵られたり。卒業式のその日は大分色々あったけれど、俺は別にどうでも良かった。
2人が何より好きだから。
バカにしてくる方がおかしいと思って、片っ端から無視したのを覚えている。父さんは「ごめん」と謝ってくれたけど、俺は本当に来てくれたのが嬉しかったんだ。
初めて。お祝い事の席に、父親という存在がいてくれたから。
「よいしょっと」
着替え終わって、リビングに帰って来ると低めのテーブルの周りの床に父さんとなっちゃんが座ってテレビを見ていた。
テーブルの上には、ホットプレートがセットされている。
「大輝」
「ん?」
なっちゃんの声。
「おかえり」
「ただいま。今日仕事早く終わったの?」
「ええ」
余程余裕をもって帰って来れたんだろう。いつもはスーツのまま食事をしているなっちゃんが、今日は少しゆったりとした私服を着ているから。
テーブルの上ではお好み焼きが既に焼かれていて、ジュージューと派手に音をたてている。
「もうちょっと待ってな」
父さんがニコッと笑ってそう言った。
さて、あの話はどのタイミングで切り出そう。
変に話すタイミングを考え始めると、何に対してなのか、ものすごく緊張して来て。胸がバクバクと大きな音で鼓動し始める。
(な、なんだ・・・やっぱゲイになったって話すのすごい緊張する・・!!)
いくら両親が同じでも。
それはやはり緊張するもので、心臓はどんどんどんどん鼓動を加速させて行くように感じた。
「あ、あのさ」
「?」
「よっと」
父さんが勢い良くお好み焼きをひっくり返す。もわっと湯気が飛び立って、それからまたジュー!っというすごい音。
はねた油がテーブルに乗せていた腕に飛んで来た。
「あちっ!」
「あ、ごめん!」
「だいじょぶだいじょぶ。ふう・・えっと、違う。話聞いて」
お腹がすいているようで、なっちゃんが自分の箸の先を咥えながらこちらを向く。
父さんはホットプレートに蓋をかぶせて落ち着いてからこっちを見てくれた。
「あのさ・・えっと、」
こうしてまじまじと見られると、余計に言い辛くなってくる。
「あ、あの・・」
大体にして。親にこういう話をするのはおかしいのかもしれない。言いようの無い恥ずかしさが浮かんで来るし、何より恋愛を親に相談してどうするんだ。いやでも、この2人は色々と経験者なわけだし、聞くなら一番聞きやすいかもしれなくて・・
「す・・好きな人、できた」
ポツリ。
割と小さい声でそう言った。
「おお!!」
すぐに父さんが目を輝かせた。
「誰だ?どんな子だ?」
父さんには、中学3年の時に付き合ってた子と、それから高1で少しの間だけ付き合った子。ようは彼女の話しや相談は、何度かしたことがあった。
「え、」
「ん?」
言っていいのか。
ドキドキドキドキと嫌な方の鼓動が続く。なっちゃんはチラチラとお好み焼きに目をやりつつも、やっぱり俺のことを見ていて。
「あ、・・・ぁ・・」
本当に恥ずかしくなって来た。
「・・お、男」
だからとにかく、それだけは口にした。
「あら。良かったわね」
「ああ、この間言ってた新しい友達?」
「・・・え?」
あれ。おかしいな。もう少し違うリアクション来ると思ってたんだけど・・?
2人とも何ともない様な顔をして、父さんはホットプレートの蓋を取り去る。もわわっと、また白い湯気が天井の方へ登りながら消えた。
俺は唖然とした表情のまま、なっちゃんと父さんを交互に見る。
「なんか、もうちょっとないんですかね」
あんまりにもあっさりとされたので、逆にこっちがそう言った。
「んー」
「・・・」
なっちゃんと父さんが顔を見合わせてから、父さんはお好み焼きにトッピングし始めて。なっちゃんは俺の方を向き直して、口からお箸を放した。
「大輝」
「?」
「オサムと私がこういう関係だから、大輝がバイセクシャルになってもゲイになっても私は何も言わない。言わないと言うか、貴方が誰を愛しても、愛せたというのがステキなんだから文句なんてないわ。驚いたりもしない。ただ嬉しいだけよ」
「・・・」
相変わらずの無表情でけれど、なっちゃんは少し嬉しそうにそう言った。
取り分けられたお好み焼きが皿に乗せられて、俺の目の前となっちゃんの目の前に置かれる。
「夏生さんがこう言ってるんだから、その辺は気にしなくていいんじゃない」
父さんが手についたソース舐めて。なっちゃんは「いただきます」と早々にお込み焼きを食べ始めた。
俺は箸を持って少しお好み焼きをつついてから、「うーん」とまた唸る。
「告白しようかなーって、思ってて」
「うん」
父さんの相づち。
「でも、何か・・今、誰とも付き合う気はないって言ってて」
「・・オサムも最初そんなこと言ってたわね」
なっちゃんが視線を移す。
「あー・・あの時は貴方がどういう人間かわからなかったので」
「?」
「だから。会っていきなり付き合ってって言われていいですよとは言えなかったんですよ。それに、俺はあの時違う人と遊びでもお付き合いしていましたし」
「え、ちょっと2人ともそれどういうこと初耳」
「私そんなこと言ったかしら」
「言いましたよ。初対面の俺に」
「ちょ、」
「そこは運命感じたとか言って受け入れなさいよ」
「何言ってるんですか、ホントにもう。大体夏生さんこそあの時いったい何人と付き合ってたんですか」
「ねえ、」
「3人くらい。全員男」
「男か女かは関係ないでしょう。よくそれで俺に声かけれましたね」
「オサムは顔が綺麗だったから」
「面食いでしたね、そういえば」
「ストーップ!!!今は俺の話!!聞いて!!!」
聞いたことの無い2人のなれそれの深い部分まで食い込もうとしていて、何だかそれは息子として触れていいのかどうかと思わず止めに入ってしまった。
2人してキョトンとこちらを向いて来るが、放っておくとそのまま懐かしい話しをしはじめて何だかいい雰囲気になってキスとかしだす人たちだ。悪いが阻止させてもらう。
何度か目の前で見せられたが正直見てるこっちは恥ずかしいのだ。
特に俺が見えないくらいまで盛り上がるとベロチュー始めるし。
もぐっとお好み焼きを口に入れる。
ソースの香り。鰹節の香り。青のりの香り。肉や野菜の味がじんわりと口の中に広がった。
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