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49話「気分になった」
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「あ…」
目と目があったのは、玄関の下駄箱の前。
向い合わせの下駄箱の端と端の互いのクラスのそこで、互いに立ち尽くして見あった。
久々な感じがする。
けれど、実際には昨日ぶりなのだから不思議だ。
千田は、驚いたのか目を真ん丸くしていた。
「…」
なにか話さないといけない、のに。
うまく言葉が出てこない。何を言ったらいいのか分からない。
胸につかえた声の代わりに、焦ったような呼吸を繰り返した。
二人だけの世界のように、周りの声や音は遠くに遠くに聞こえる。
救馬と帰ろうと言う話になったのに、アイツは忘れ物をしたとかで教室に引き返した。先に下駄箱まで来た俺は、今、千田と向き合っている。
「ち、千田、」
とにかくなにか話さないと。
「ぁの、」
「ごめんっ」
「え?」
声をかけた瞬間、逃げるように。
履き替えた靴を慣らしもせず、勢いよく下駄箱の鍵を閉めて走り出したのは千田で。
俺はただ呆然とした。
避けられたという事実が。拒絶されたという現実が。
あんまり残酷なので、ただ呆然とした。
(どうしたら良かったんだ…?)
キスしてしまったからいけない。
告白してしまったからいけない。
大体にして、
アイツを好きになってしまったのがいけない。
まるで悪いことをしたみたいだった。
人を好きになるのは素敵なことのはずなのに。
まるで、犯罪でも犯したような気分だった。
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