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52話「止まった」
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「千田」
「ん?」
「お前、逃げた方がいいんじゃないか」
「え?」
「ほら、あれ」
「・・・!?」
「千田ぁあああああああ!!!」
俺が叫びながら玄関を飛び出し千田に向かって突進して行くと、千田の隣を歩いていた宇田っちが千田にぼそぼそと何かを告げる。
次にこちらを向いた千田は目をまん丸くして驚き、そして、
次の瞬間、もと来た道を振り返り、全力ダッシュで俺から逃げ出した。
「えッ!?何で!?」
「く、来るな宮崎!!」
久々に呼ばれたように思えた。
だからその嬉しさ半分と驚きとショックが半分で、ますます俺の足は止まらなくなっていて。
そのまま、宇田っちや本原、沢野の間を通り過ぎた。
「大ちゃんおはよー、がんばれよー!」
「おはよーお前ら遅刻ギリギリだぞがんばるわー!!」
驚いている本原なんか声も出ないようだったが、構わず過ぎておれは正門から飛び出す。
「宮崎危ないだろうが!!あと千田!!戻りなさい!!今登校して来たばかり、っておい!!宮崎何処行くんだ!!」
加藤先生は今日も服装検査官として正門に立っていたらしい。
後ろからそんな声が飛んで来たが、気にせず走って行く。
部活は何もしていないが、一応俺は草野球チームに入っている。まあ、今は受験期だから休めと言われて行っていないが、一応そこで鍛えているから足だって速い。
の、だが。
千田も速い。なかなか速い。
そういえば、中学のときは陸上部とか言っていた様な気がする。
「千田待て!!おい!!止まれよ!!」
息継ぎの間にそう言っているのだが、千田は全然止まらない。学校から駅まではあまり曲がったりしないから、直線をひた走る俺たち。
そして、そんな俺と千田を「どうした」という目で見る後輩や同級生。
「ミヤー?何してんのー?」
これはクラスの女子の声だ。
「千田狩り!!」
「狩り!?」
言いながら通り過ぎて千田を追う。
段々と疲れて来た。
「千田ー!!ちょっと話したいだけだからそう恐がるなってばー!」
大体お前、避け過ぎだろ。
昨日のあれだけでも傷ついたのに、何なんだこの仕打ちは・・!!
「なあごめんってばー!!」
「来るなとにかくー!!」
何でだよ。
嫌だよ。
好きなんだから避けられたままとかいやに決まってんだろ!!!
「お前が止まるまで追う!!」
「来るなー!!」
あ、道を逸れた。
どうやら駅に行く気はないらしい。
千田が曲がった角。
俺も合わせて曲がる。千田との距離はさっきと一緒。どうやら速さは同じくらいらしい。
(となればスタミナ勝負か・・!)
肺が忙しく動く。胸の上下は激しく、肩まで揺らしながらの長距離戦。
段々と学校は遠くなり、見えて来ていた駅も遠ざかる。何処へ向かうでも無く、千田はとにかく俺から逃げていた。
(この、野郎・・!!)
もう仕方が無い。賭けに出よう。
そう思って、グンとスピードをあげた。
「はあっはあっはあっ!」
千田は今よりスピードは出ないらしい。こっちを振り返って、縮まった距離に驚きつつも今以上に速くはならない。
俺は腕を伸ばして、千田の後ろ襟を掴もうとした。
あっちは鞄を持っている分、走り辛そうで。
やっとのことで、手が届く。
「っあ、」
掠めた。
「千田、お願いだから・・・待って!!」
最後の力でグンと腕を伸ばす。
周りにはもう、同じ学校の生徒はいなかった。
朝の住宅街、というよりは、何かの工場と工場の間。
道の両端を緑色のフェンスが囲っている。
「千田!!」
グッと、掴んだ。
千田の後ろ襟。
「んっ!」
「あ、ごめ、」
苦しそうな声と共に、俺と千田が止まった。
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