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60話「悪かった」
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6時間目。
突っ伏したまま授業を受けた。何も考えたくない。何も聞きたくない。目をつぶりながら息をする。6時間目の授業は数学。厳しい先生だから何回か「千田、起きろ」と注意される。具合の悪そうな顔をしていると、その注意も数回で止んだ。
気分が悪い。
チラリとそちらを向くと、沢野が心配そうにこちらを向いていた。
「・・・」
スッと、一瞬で視線を離す。
ああ、やっぱり嫌だ。すごく、嫌だ。
沢野と宮崎はそりゃあ、俺がアイツと知り合う前から仲が良いんだろう。そんなことはわかってる。
この先もきっと仲がいい。
大学に進学したら、宮崎をフった俺は、宮崎との関係を終えなければならないのだろうか。この気まずい感じが続くのは、きっと宮崎も嫌だろう。だとしたら、全部終わりになるのだろうか。
卒業式で、全部。
お別れで、終りで。
「・・宮崎」
ポツリと小さく。誰にも聞こえないように。自分にも聞こえないくらいのその声で呟いた。
好きだとか、ドキドキするとか。そんなことじゃない。
ただ、友達でいたい。
誰より近い宮崎の友達になりたい。
そんな欲が、腹の底からぶくぶくとわき上がって来る。胸に溜まって、重たくなって、吐き出しそうになる。
あの居心地のいい場所が欲しい。
宮崎の隣。穏やかで、ゆったりして、気持ちのいい場所。
「・・・」
自分が気持ち悪い。
こんなに欲深いくせに、愛せない自分が気持ち悪い。
気持ち悪い。
もう、嫌だ。
愛せないのに。愛したいのに。あの場所が欲しいのに。
心臓が無いみたいに、胸は鼓動しない。高鳴らない。ときめかない。
「ッ・・」
「千田ぁー。お前具合悪いのかー?」
「っ、・・あ」
泣きそうになったままの顔をあげる。腹の抱えながら机に伏していた俺を見下ろしていたのは数学の教員。
「おい、汗までかいてるぞ。保健室行って来い」
「いや、あの・・」
「大丈夫なのか?ずっと突っ伏してるだろ。腹痛いのか」
「・・すみません。気持ち悪くて、寒くて」
「風邪か何かか。一旦保健室行って来い」
随分と気の利く先生だ。
具合が悪いのではなく、気分が悪いのだが。
保健室に行っていいと言われ、席から立上がる。周りの目がこちらを向いていた。
その中には、沢野の視線ももちろんある。
「すみません。有り難うございます」
お辞儀をして、そそくさと教室から出ていった。
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