アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
「僕のことは知ってる?」
「そりゃあ、もちろん」
うちの大学を出て作家になった人は、まあいるが、この人より売れたり、有名になった人はいない。はじめは幻想文学を書いていたが、売れるにつれ、エンターテイメントやエッセイにも顔を出し始めた。映画化の原作になったこともある。
「そうか」
と作家先生は小さく笑った。それが自虐的な笑みであったのも、まあ無理はない。この人を一番有名にしたのは、作家として成功したというよりは、他の話にある。
映画の看板女優と二人でドライブに行き、そして、居眠り運転をしていたトラックに突っ込まれた。女優は即死した。彼は、命だけは助かった。
左半身の怪我が酷く、杖なしでは歩けなくなった。左目も失明した。
恋愛の関係にあったのだとメディアは報道したが、関係者たちは頑なにそれを否定した。もちろん古城賢人自身も、あくまで友人であったと公言したのだが、下世話な報道は次のエモノを見つけるまでしばらく続いた。
十年近く前の話だ。
「それで、君にやってほしいのが……」
挨拶もそこそこに、作家先生はバイトの仕事内容を説明し始める。先代からも引き継いだ大量の書物。本は主に、離れにある。というか、離れが本で埋まっている。なので整理整頓、目録の作成をしてほしいとのことだった。
案内されると、まあびっくりした。古い日本家屋だとは思っていたが、家のなかに中庭や橋がある家は初めて見た。大昔は女中部屋だったらしい離れはその奥で、和室が六つほどあった。文字通り、本で埋もれていた。襖も外されている。
「親父は本に興味なかったからね」
持ち主であった祖父が亡くなった際、父はどうせそのうち捨てるからと、乱雑に離れに突っ込んだ。そしてそのままにした。作家先生はそう話す。父も死んで随分経ったし、そろそろ僕の好きにしていいかなと思ってね。
「こんなに本あったら読みたくなりませんか」
そう訊ねると、先生は少し首をかしげて、………………ちょっとだけ、さみしそうな顔をした。大量の古書を目の前にして、はしゃいでる俺とは真逆の感情らしい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 66