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「さて、と……」
古城先生は自室に戻り、俺は作業を開始する。スーツで来なくてよかった。既に紺の靴下が、土埃で白くなっている。まずは片付けから始めないと駄目だ。そのあと掃除して、本の整理は更にそのあと。
今日は挨拶と下見だから、とくに何も持ってきてないけど、次回は軍手と雑巾と替えの靴下を持ってこよう。服はいいや。どうせカジュアルな安物だし。
文学作品もあるが、学術書がけっこうある。文法や古典解説があるかと思えば、人体図鑑に薬物一覧。先生のお祖父様は、いったいどんな方だったんだろう。あちらでは吉屋信子と柳田邦男が雑に積まれている。かと思えば、こちらでは黒岩涙香と江戸川乱歩が綺麗に並んでいる。ていうか、これ、初版?
しばらくゴソゴソと見回る。なにしろ、ひと部屋ではないのだ。扉を開けるたびに、視点を変えるたびに、違うジャンルの本がある。なんだか楽しい。和綴じの本が埋もれている。図鑑が積まれている。奥には巻物がちらっと見える。早く発掘したい。そして読みたい。
というか、触りたい。
試しに近くの角川文庫をひらいてみる。これはまだまだ新しいものだ。たぶん、あまり埃を被ってないものは、古城賢人が買ったものなんじゃないだろうか。辰巳四朗の表紙に、中は小さな文字。今の書店で買えるものは文字が大きくなってしまって、まあ読みやすいんだけど、俺にはなんか物足りないんだよなあ。紙も白くてツルツルだし。
別の本を手に取る。小学館。ひらけば活版印刷で心踊る。黄ばんだ紙の、凸凹をそうっとなぞる。愛しい。旧字体に旧かなづかい。中身は何やら難しそうだけど、これ、ゆっくり読んでみたいな。
「山田くん?」
「うおっ」
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