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いつの間にか古城先生が戸口にいた。マジでびっくりした。足音した?
「…………本当に、本、好きなんだねえ」
「え、はい」
「……………ふふ」
「見た目とギャップありすぎっすか」
「……うん。ごめん」
「よく言われるんで大丈夫っす」
そりゃそうだ。
今時、ブリーチでアッシュグレーにした髪、さらに赤のメッシュをいれて、きらきら光るたくさんのピアス、金と赤のカラコンを片方ずつ、左の手の甲には髑髏のタトゥー。服装も、まあそれなりに真面目には見えないし。
「その見た目で、一番好きな作家が、」
「尾崎紅葉です」
「……ふふふ。……君を初めて見たとき、あの問題は別の誰かが解いたのかと思ったよ」
「ひでぇな、先生」
「うん」
後ろは日のさす中庭。緑鮮やかな。どこかで鳥の声。仕立てのいいシャツ。やわらかそうな灰色のカーディガン。先生は楽しそうに笑う。それでもどこかヒヤッとしていて、何故かその矛盾がやけに心にひっかかる。なんだろう心が、ざわめく感じ。落ち着かない。触りたい。
…………触りたい?
「あ、でね。そんなエキセントリックな若者に頼みがあって」
「エキセントリック少年ボウイに何の御用でしょうか」
「その発言はむしろ昭和な……」
スマホを取りだし、使い方を俺に訊ねる。この前編集担当からきたデータ、どこに保存されてるのかわからないとのこと。iPhoneじゃないから詳しくは知らないが、まあ使い方なんてどれも似たようなもんだろう。
「とりあえずここをスワイプして」
「すわ、ぷ」
「みょーんて」
「みょーん……」
「えーと。お借りしても」
「うん」
受け取ったスマートフォンをツルツル操作する。先程の活版印刷とは全然違う。先生、疲れてるんだろうか。それとも普段からこんな、アンニュイな感じなのかな。ちょっと子供っぽいしゃべり方。
「これっすか」
「んー……」
スマートフォンをのぞきこむ、先生の顔が近付くことにドキッとする。意味わからん。ここに来たときから感情が安定しない。憧れの作家先生に会えて、大好きな本が大量にあるからか。
かすかに甘ったるい匂い。
「あ、これだ。ありがとう。どうしたの?」
「先生いい匂いする」
「…………」
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