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【陰影礼讚】1
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【陰影礼讚】
「カレー食べたくない?」
セックスしたあとに何言ってんだこいつ。
「学校行く?」
俺もどうかしてるけど。
エクステでピンクや赤のメッシュが入った、お人形さんみたいに長い黒髪。細いくせにDカップ。まりあ、という名前はこいつの場合、聖女よりはマグダラに近い。俺をセフレに選ぶような女だ。
「あはっ、学食のカレー美味しいよね」
何万するんだってワンピースに手早く着替えて、まりあは化粧を直しに洗面所へ消えた。俺はまだ裸のままで、動く気になれない。
彼女と出会ったのは大学だ。俺の格好をみて芸術学部だと勘違いした彼女に、声をかけられたのが始まり。ときめきなんか一切なくセックスして、今もその関係は続いている。正直、居心地は大変に宜しい。
「ねえ、早く仕度してー。あたしお腹すいちゃった」
「起こして」
「キモい」
そう言いながらもベッドに横たわった俺にまたがり、腕を引っ張って起こそうとしてくれる。ちょうどスカートの中身が俺の股間にあたっている。起きあがってまりあにキスした。もし俺がカノジョを作るなら、こんなにグロスを使う女とは付き合わない、かな。
「ちょっとー?」
太ももを撫でたら怒られた。いいじゃん、と言ってベロチュー。俺のキステクは今までしてきた人からはかなりの好評をいただいている。だから彼女も許してくれるんだろう。
「もう一回しよ」
「しない。お腹すいた、ってんの」
「ちぇー」
手早く服を着て、荷物をまとめる。真っ黒のベッドからおりて、ピンクのカーペットに足をおろす。まりあはこの部屋に今まで何人の男を連れ込んだんだろう。一ミリも嫉妬しないし嫌悪もしない。
歩いて数分で大学につく。まっさきに学食にむかってカレーを注文する。260円。安すぎ。でも美味い。
「バイト順調?」
「うん」
順調だ。先生はほぼ自室で仕事をしていて離れには来ないし、俺もやることがありすぎる。先日海野十三のまだ読んでない短編を見つけて、思わず読んでしまったから余計。
そういうわけで先生とはあれから何もない。もちろん。当たり前に。ふれた感覚も、さわられた熱さも、もう完全に忘れてしまった。お互いの間ではなかったことになっている。きっと世界がバグったんだろう。俺はゲイじゃないし、先生も違う。好きではないし、好かれる要素もない。
「ん、レン君からだ」
まりあがスマホをいじりだす。俺はカレーを食い続ける。カノジョにするなら食事中くらいはスマホを触らない子がいい。ちなみにレン君というのが、今彼女が狙ってる男の子だ。俺にはなにがいいのかわからないけど、まりあ曰く「レンブラントに似た音楽が彼にはある」らしい。芸術学部の言うことは意味不明だ。レンブラントは画家だし、夜警はどちらかといえば静謐じゃないのか。
午後は真面目に授業に出た。
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