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「先生家ってお化け屋敷じゃないよね!?」
今日のバイト。着くなり、玄関を入って左側の部屋、つまり応接間にいる先生に声をかけた。俺が行くとき、だいたい先生はこの部屋でくつろいでいるか、縁側に座って俺を待っている。
今日は田辺さんもいた。多分また打ち合わせしてたんだろう。二人はきょとんとした顔で俺を見た。
「学校で聞いたの?」
田辺さんが俺にアイスティーをすすめてくる。なんだか、ここの家政婦みたいだ。そういえば、いつぞやは玄関の電球も取り替えていたっけ。作家と編集ってだけじゃなくて、友達か親戚みたいに仲いいんだろうなってのは、もうなんとなくわかってる。
「友達が言ってた。あとうちの学校に取材くるってほんと? つーか人死んでるって嘘だよね?」
俺の剣幕に先生は口許をおさえてクスクスと笑う。田辺さんは、どーするんすか先生、という顔で彼を見る。なんで田辺さんのがちょっと焦ってんだろう。
「母校に取材したのは本当。もう終わってるけど。けっこう綺麗になってたね、校舎」
「言ってくれれば俺案内したのに」
「……無駄に注目されたくないでしょう」
「あーそっか」
アイスティー美味い。スクーター飛ばしてきたから、のどがカラカラだ。
「…………で、他のは?」
先生はどうしようかと面白そうに田辺さんを見るし、田辺さんは苦笑いで腕を組む。あーむかつく。この、おとなにこども扱いされてる感じ。
「……おばけとか、信じる?」
田辺さんが応えた。答えにはなってないけど。
「その言い方されたら、信じてないってなるけど……」
でもいるとかいないじゃなくて、気味が悪い。本が勝手に増えてるって、最初の頃に聞いた。まあそれぐらいは勘違いですむけど、天井に包丁とか、大事な商売道具がダメになってるとか怖い。真相がどうあれ、自分に危害があったら怖い。
「人が死んでるのは事実」
先生は言う。
「まあお祖父様はこの家で亡くなってるわけですしね」
田辺さんの言葉に納得しかける、が、殺人があったのかどうかが重要だ。老人の大往生は知らん。聞きたい。でも聞いてもいいものか、今更迷う。なんでか田辺さんが喋ってるってとこに、なんかあんだろうなとは思う。わかんないけど。ただのバイトが聞いていい話じゃなかったのかもしれない。
お茶飲んでお菓子食べて、おとなしく離れにむかう。どんよりと曇った空のせいか、あんなに清々しいと思ってた空間が、薄暗く静かで冷たく、………ちょっと怖い。
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