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一応、なんかあった時のために連絡先は交換してある。でも、今まで使ったことはなかった。
こーゆーとき、慌てて出るもんなんだろうけど、現実感がなさすぎて固まってしまう。うん、でも先生なんだよね。ゆっくり通話ボタンを押して、耳に当てた。
「もしもし……」
なんだろう、すごくドキドキする。
「……っあ、もっしもーし! 山田くん?」
田辺さんかよ。
スマホを投げつけたい衝動をこらえる。お疲れ様です、と挨拶した。なんか忙しいのか、ゴソゴソ聞こえる。先生と叫んでる田辺さんの声。なにやってんだ。
「……あ、ごめんねー。今大丈夫?」
「めちゃくちゃ暇してます」
だって本来ならバイト終わりくらいの時間だ。
「あーそう、よかったー。ちょっとだけ時間もらえる? 先生、酔っぱらっちゃっててさー」
「先生が?」
「そーなんだよ、あっ、せんせ、寝てください、あぶな」
またゴソゴソ。あの先生が酔っぱらうなんて想像もつかない。けっこう呑めるか、呑んでも自制出来そうな感じなのに。
「…………やー、ほんとごめんね。どーっしても先生が君と話したいっていうから」
「あーはい、全然大丈夫ですよー」
めんどくさい酔っぱらいの相手なら、父さんで慣れてる。演説か講義をし始める父さんを、母さんと一緒にはいはいはいはいと流していたっけ。
「迷惑だよねー。この人電話のかけ方もわからないんだよ」
「あー………」
そういえば先生、スマホ使いこなせてないんだっけ。じゃあ、このラインのプロフィール画像も、田辺さんチョイスなんだろう。猫。
じゃあ換わるねー、と言ってから、またしばらく先生の声は聞こえてこない。電話は少しむこうの音を拾って、なんか先生が田辺さんにだだこねてるみたい。大変だなあ、編集って。……っていうか、先生のお供って。
「あ、山田くん? ふふふ」
「……先生、けっこう酔ってますね?」
なにがそんなに可笑しいのか、ずーっと笑ってる。耳にくすぐったい。
「酔うよー。いつもはこんな飲み方しないんだけどー、佐久間がさぁ、いたからさぁ、そしたらさぁ、……飲むじゃん?」
「いや知らんす。佐久間って誰っすか。佐久間めろんっすか」
「おー、知ってる! さすが若者!」
冗談で超有名なエンタメ作家の名前を出したら、事実だったので血の気が引く。
Fランに落ちたんでラノベ書きました、で有名な佐久間めろん。初シリーズがアニメはもちろん映画ゲームスピンオフ漫画を出すほど爆発的に売れ、その後のシリーズも飛ぶように売れている。電子書籍でアホみたいなダウンロード数を記録し、今もそれを超える作家はいない、あの。
お金がありあまってるからプール付きの豪邸作ったり自家用ジェット機持ったりしてるという、あの。
佐久間めろん。
「…………え、仲良いんですか?」
「んー。数回しか会ったことないけどねー。ふふふ、あの子ほら、僕のこと好きだから」
吐息混じりで話す声がなんかエロい。つーか、好きって。なんじゃそりゃ。いらっとくる。でも先生に怒る理由がないので、はいはいと流す。
「あ、ファンだった? サインもらってあげよっか」
「いらないっす。正直ラノベ嫌いなんで」
いや読むけど、たまには。でも佐久間のは読んだことない。きっとこれからも読まない。
「あー、ねー。山田くんには僕のほうがいいもんね?」
先生が嬉しそうに笑う。
「そうですね」
「はっきり肯定されると照れるなぁ」
「……事実なんで」
「んふふー」
あーもう。なんで電話なんだろう。顔を見て話したい。絶対今可愛いもん、先生。開いたままの本を撫でる。満たされない。ああ、足りなかったものがようやくわかった。
「山田くんはなにしてたのー?」
「……本撫でてました」
「あー、いいねー」
いいのかよ。適当だな。
「本当は先生に触りたいんですけど」
「………………あー……」
笑って返してくれると思ってた。微妙な反応。
「…………………」
「…………………」
無言。気まずい。じゃあなんで今までキスしたり添い寝してくれたんだよ。胸が苦しくなる。
触りたい。
顔が見たい。
声だけじゃ足りない。
「嫌でした?」
「……悶えてた」
予想外の言葉が返ってきた。
甘ったるい、掠れた声。
「電話でそんなこと言うなんてずるい……」
…………いや、その反応のがずるいんだけど。
「……俺、電話じゃなくても、直接言ってますよね」
「そうだけどこう、耳にね。うーん、脳に直接。……あ、これが萌えっていうのか」
「違ぇし、つかそれ佐久間に教わったでしょ。使わないで」
「怒られた……」
「……今どこにいるんですか?」
「え、佐久間ん家」
「…………大豪邸?」
「あー、ふふ、それ」
なんかねー、すごいよ、プールとか大きい模型とかある。先生の言葉をまた聞き流す。あーはいはい、俺あいつの作品絶対買わない。
「やだよねー、こんなの。僕だったら要らないなぁ………」
「だいたいの人は要らないんじゃないっすか」
「ふふふ、税金対策なんてねー。くだらない。僕は小説が書ければそれでいいなぁ……」
「でも売れたいでしょ?」
散らかした本を片付けながら、先生と会話する。
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